第9話 竜将軍アスリナ、全裸で診察室に降臨

「……わしはアスリナ・ヴァル=ゼグラード。魔王軍〈第七戦団〉将軍。

 貴様が、“古医術師”か?」


 その声は低く、地の底から響くようだった。


「……ああ」


セレンは一歩、竜の前に進む。 

ただの医者ではない──“魔族を診る医者”としての、評判が立ち始めている。


アスリナは、じっと俺を見下ろしていた。

その金色の瞳には、軽んじるでもなく、期待するでもなく

──ただ、試すような光だけが宿っている。


「診せろ」


そう言うと、アスリナは庭の石畳に身を横たえた。

夕陽に染まった紅い鱗が、静かに光を弾いている。


「最近、魔力制御がうまくいかん。

先日も、戦場で一瞬、判断を誤りかけた」


その言葉の裏にあるものが、何より重い。

力を至上とする魔族にとって、失策は、

何よりの弱点となるだろう。


「……配下から挑まれている。このままでは、将軍の座を降りることになる」


言葉少なに続けながらも、アスリナの声音は明確な危機感を帯びていた。


「ほかに、自覚症状は?」

「鱗の下が疼く。肉がうずき、骨に違和感が走る。

 ……“老い”だと囁く者もいた」


その言葉に、静かに牙を噛む音が響く。

竜族にとって最大の侮辱なのだろう。


とにかく、外観からでも診るしかない。

俺はアスリナの巨体に近づき、鱗の隙間にそっと手を添える。

指先に伝わるのは、肌の固さと内部の張り――

魔力皮膜の張力が異常に高まっている証拠だった。


だが、これでは深部まで触れられない。

筋肉や骨格、経絡の異常を確かめるには、

鱗と魔力皮膜の内側に触れる必要がある。


「人化できるか?」

「……心得た」


アスリナは一歩前に出て、静かな決意とともに目を閉じた。


その巨躯が、燃えさしのような赤銅の粒子へと分解され、空気に溶けていく。

熱を帯びた魔力がふわりと辺りを撫で、周囲の空気が微かに震えた。


炎の残光がゆっくりと収束し──

そこに現れたのは、深紅の髪と琥珀の瞳を持つ、一人の若き将軍だった。


「きゃ♡」


思わずラナが声を上げる。

俺も反射的に視線を逸らしたが、遅かった。


鍛えられたしなやかな筋肉。

なめらかな肌には、鱗が薄く花のように散っている。

そして──赤。


腰から下腹部にかけて、鱗のひときわ濃い箇所が、

まるで装飾のように彼女を覆っていた。


だが、それすら自然のまま。布は一切、身につけていない。


(やばい。見ちゃいけないやつだ……!)


視界の端に映った燃えるような赤が、妙に鮮烈で──

それが髪と同じ色だと気づく頃には、もう遅い。

脳裏に焼き付いて、離れなかった。


***


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