3話:沈黙寡言・トレシア

「あの・・・」


その時、森の方から声が聞こえて、俺は咄嗟にその方向に振り向いた。

すると森の入り口には暗い雰囲気を纏っている高校生くらいの眼鏡の少女が立っている。

そして俺は、見覚えのあるその少女に声をかける。


「小倉・・・?」

「おぐらって、誰・・・?あたしは、トレシア・・・だけど」


小倉とは、俺が所属している幼馴染グループのうちの一人だ。

本人は小倉であることを否定しているが、声と喋り方、そして声量も俺の知っている小倉と瓜二つだ。


「え・・・小倉じゃないのか?」

「あたしは、トレシア・・・」


この構図、さっきもあったような気がする。

そう思いながら俺は顔をしかめる。


「ところで、あなたは・・・伝説の勇者?」

「・・・多分、なんで知ってるんだ?」

「・・・あたしには、機密情報があるから」

「何だよそれ・・・」


出会った頃から表情が一度も変わっていないポーカーフェイス、隠したいことを機密情報という、これらも小倉の特徴だ。

俺は本当に本人じゃないかと疑っていると、トレシアは話し出す。


「こんな感じの伝説の勇者、なら・・・話が、早く済みそう」

「話?話ってなんだ?」


そう俺が問いかけると、トレシアは自身の足元に向けて手をかざす。

すると魔法陣が出現し、光り出した。

俺が驚いて固まっていると、トレシアの服装が黒い軍服のようなものに変わり、頭には角ばっている悪魔のツノが生えていた。


「あたしは・・・魔王軍の四天王の1人、ベリアール・トレシア。任務上、あなたには魔王城まで・・・ついてきてもらうよ」


こいつが四天王の一人ってことは、他の奴らもここにいるのでは?と俺は考える。

仲良しグループのメンバーは俺含め6人、小倉がいるならいてもおかしくない。


「早速、出発しよう・・・魔王様は、せっかちな人・・・だから。それに、あなたも、魔王城に・・・用事があるんでしょ?」

「ま、まあ・・・そうだな」


トレシアと俺が森の奥に1歩踏み出した途端、トレシアが頭を抱え始めた。


「・・・ちょ、ちょっと待って・・・」

「ん?どうしたんだ?」


トレシアは地面にしゃがみ込み、ついには反応しなくなった。


「お、おい・・・おい!おぐ・・・じゃなくて!トレシア!しっかりしろ!」


どうしよう、トレシアが動かなくなってしまった。

現実ではこんなことが起きたことはない、だから俺はどうすれば良いのかがわからない。


「どうしたら・・・」


俺はその場でトレシアを揺さぶりながら、あたりに人がいないかと探す。

一度王都に戻るべきか?いやでもトレシアはおそらく魔族、人々が怖がる可能性がある。

そう考えてるのも束の間、突然自分の頬に何かが触る感触がした。


「・・・小倉・・・?」


自分の頬に当たったものは、小倉の腕から伸びていた手だった。

そして小倉は俺に向かってこう言った。


「・・・ふふふっ・・・ただ人格交代しただけだし、そんなに驚かなくてもいいんじゃな〜い?」

「へ?人格交代?」

「それと、小倉って誰のこと?あたしはベリアール・トレシア!さっきも自己紹介はしたけど、別人格がしたから今度はあたしからするね〜、よろしく〜♪」


そうだ、俺の知ってる小倉は二重人格者だった。

主人格である小倉は過去のトラウマから暗い性格になっていて、裏人格の小倉は主人格を塗り替えるようなギャルな性格。


『俺の元いた世界では人格は気付かないうちに変わるから、今のようなことは無かったが、こっちの世界ではあるんだな・・・』


「ていうか、歩きながら話さない?どうせ君も魔王城に用事があったんでしょ?」

「ま、まあ・・・そうだけど」

「んじゃ!早速出発しよ〜!」


そういうとトレシアは軽快な足取りで森の奥まで進んでいき、俺はその後をついてゆく。

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