第15話
治安維持の再構築──自衛隊と警察の統合体制へ
日本列島が突如として世界から孤立し、情報・物資・法秩序の基盤がぐらつき始めた直後、政府が最優先課題として取り組んだのは、国内の治安維持と社会秩序の安定だった。極限状況下では、ほんの一つの流言や不信が、人々の行動を暴動や略奪へと導いてしまう。その連鎖を絶つため、国家は従来の体制を根底から見直す必要に迫られた。
まず打ち出されたのが、従来分かれていた警察と自衛隊の機能を部分的に統合した新組織、「統合治安部隊」の創設である。これは有事に対応するための臨時的な措置ではなく、物理的安全だけでなく、精神的な安心をも提供する体制再編だった。部隊は各地域での暴動の抑止、医薬品や食料などの物資輸送の防護、重要インフラへの不正侵入の監視などを担い、“公共秩序の盾”として機能した。
この統合部隊を指揮する中央機関として、政府は新たに「国家治安統合本部」を内閣直轄で設置。その初代本部長には、自衛隊と警察それぞれの現場と制度を熟知した幹部が指名され、両組織の相互理解と柔軟な統合運用を実現する設計が施された。
また、この制度改革を裏打ちするための法整備も迅速に進められた。通常時では議論すら許されない非常権限の適用についても、国会は特例的に「緊急事態基本法」の発動を容認。さらに移動・通信・報道など一部の市民活動を一時的に制限するための特別措置法が整備され、社会不安の拡大を未然に抑える“法の防波堤”が張り巡らされた。
こうして、かつてない混乱の只中で、人々の行動が無秩序ではなく共助へと向かうよう設計された「治安の再構築」は、単なる防衛ではなく、“国家という物語を信じ続けるための作法”となっていった。ここでは制度が人を守るのではなく、“人が制度を信じられるような構造”が積み上げられようとしていたのだった。
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