「影より現れるもの」

人一

「影より現れるもの」

「ねぇ、あの噂知ってる?願いが叶う儀式の噂。」

「あー、知ってるけど?」

「やってみない?簡単そうだし。ね?」

「えー?夜の教室でやるんでしょ?怖いし…そもそもそんなの、嘘なんだからやめとこうよ。」

「大丈夫だって!じゃあ今夜この教室に集合ね!道具とかの準備は全部、私がやっとくから逃げずにきてね~。」


 ――夜の教室って、思ったよりも怖いな…。でも電気をつけたらいつもと変わらないし、あの子も来てくれたし、大丈夫だよね。

「ちゃんと来てくれてありがとうね!じゃあ始めよ。」

 友達は何も言わないが、準備を手伝ってくれる。

「じゃあまずは、机を円形に配置して…その上に白い紙を置いていく。」

「次はこの紙にロウソクを置いて、反時計回りに1つずつ火を点けるんだっけ?」

「そうそう!じゃあ私がロウソク置くから着火をお願いね~。」

「…よし、これで最後。全部火が点いたけど、次はどうするの?」

「えっと…今まで机の円の中で準備してたけど、後は円から出て呪文を唱えればいいんだったはず。」

「そうなの?じゃあさっさと出て始めちゃいましょ。」

 友達は始めこそ文句ありそうだったけど、準備が進むうちにすっかり楽しそうだった。

「呪文、ちゃんと覚えてるの?」

「一応ちゃんと覚えてるよ。…じゃあ、始めるよ。

{なないえるおとをはこのみまわではすひのかあ}…」


 …しばらく待っても何も起こらない。

「やっぱ噂なんて、嘘だったんじゃん。」

「そうだね~ちょっとガッカリだけど…帰ろうか。」

 ロウソクを一本吹き消した瞬間全ての灯りが消え、教室は月明かりにほのかに照らされた。

「えっ?どういうこと…?誰かが驚かそうとしてるの……?」

 私は辺りを見回すが、薄暗い中で友達と目が合うばかりだ。

「ねぇ!誰かいるの?脅かさないでよ!」

「誰か知らないけど、返事しなさ――

 ぶつ切りになった叫び声に驚き、友達の方を見るもなぜか影も形もなかった。――まるで今日は初めから1人であったかのように…。

「ねぇ!どこにいったの?なんでこんな時に隠れるのよ…。」

恐る恐る辺りを見回すと、ふと違和感を覚える。

「…なんかこの部屋影が濃くなってない?気のせいかな…。

もう…1人でも帰っちゃおうかな…。」

 ――なにかに見られた気がした。

はっきりと、そう感じた。辺りにはもう、自分以外誰もいないというのに。

「…えっ?だれ?帰って来たの…?」

 私の疑問に答える人はおらず、声はまた影に溶けていく。

 ――なにかに掴まれた気がした。

「えっ?なっ、何――

 突然声が出せなくなる。

まるで見えない“なにか”に首を絞めあげられてるかのように。

そして、私が最後に見たのは――

逆さまの月に照らされた教室だった。

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「影より現れるもの」 人一 @hitoHito93

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