自主企画参加・『梅酒、距離、種族』

夢美瑠瑠

第1話


  ケモミミ族、とりわけ「猫の耳”種族”(☆Clear!!☆)」は、敏捷で、運がよく、盗賊に向いている。


 猫の耳種族の大運動会の100メートル走で、ぶっちぎりトップで優勝した、”チーター”という名前の大盗賊の女の子がいた。

 (申し遅れたが、”フェアリーテイルプラネット”…それがこのオハナシの舞台の惑星の通称で、 ”焔火球星系第二惑星・HGVⅡ”が、銀河系政府での法律上の正式名であった。)


 チーターは、滅法足が速くて俊足で、”韋駄天のチーター”と、異名をとっていた。

 いざというときの、猫族のすばらしい瞬発力は誰でも、いや、知っている人は知っている。

 本気になって、牙と爪を剝きだして、獅子奮迅に戦えば、人間などひとたまりもない、猫の強さ、運動能力の凄さも、知っている人は知っている。


 つまり、本質的に”ハンター”であるがゆえの、運命さだめ。それは長い年月の数えきれない記憶、経験が遺伝子ディー・エヌ・エーに刻み込まれた、そういう歴史の堆積の重みが裏付けになっている。


 猫耳族の大多数は、基本、盗賊っぽいなりわいでくらしていて、かっぱらいをして逃げながら「泥棒猫!!」と呼ばれることはむしろ何よりの名誉、快感…かの種族は、そういう価値観で暮らしていた。

 チーターは、猫耳族で一番すばしこいかっぱらいに送られる称号・『怪盗』を、3年連続受賞していた。


 怪盗ルパン、は一種の義賊である。

 鼠小僧次郎吉、のごとくに露骨ではないにしろ、権力のイヌ、?みたいな世の中の旧弊なものにはアンチテーゼを唱えたがるのが、義賊。


 で、チーターも”権力の走狗イヌ”みたいなのとは肌が合わないタイプの「怪盗」でした。 だってネコだものw


…さて、


 その日も、チーターは、優雅に村の中を、散歩、闊歩していました。 髭は金色のピアノ線のようで、毛並みはビロードの耀きを思わせて、銀狐の高級な毛皮のようでした。


 「”怪盗”チーター様、できたての”梅酒”(☆Clear!!☆)はいかがですか? 今年できた梅の実で作った搾りたて、”ボージョレヌーヴォー”ですよ!」

 酒屋が声をかける。

「梅酒にもそんなのあるんだ~ 飲みたくなっちゃった! いくら?」

「一杯目はサーヴィスです! あとは飲み放題で1000クレジット。 」


 見ると、その飲み放題で酔っぱらっているらしい猫耳族の仲間がたくさん酒屋の前にたむろして、真っ赤な顔で陽気に騒いでいて、アルコールと梅の実の薫りが混じった芳香がぷんぷん匂っていた。


「よおし! ヒマだから、呑んじゃおうか! ハイ、1000クレジット。」


… …


 3時間後、べろべろになって、正体のなくなったチーターは、千鳥足で、家路をたどっていた。

 いつもなら、ゆっくり歩いても半時間ほどの”距離”(☆Clear!!☆)ですが、ふらふらさまよって、途中でゲロを吐いたりしたので夕方までかかりました。


 「うーめーい酒(旨い酒=梅酒)飲み過ぎて、チーターイ(遅滞)しちゃったぜ! 足の速いのが取り柄なのに笑」


<了>


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自主企画参加・『梅酒、距離、種族』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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