調書2 チッ チッ チッ チッ・・・・・・

 合唱コンクールも近づき、クラスの合同練習が行われる。最後のコンクールにみんな力が入っているのが感じられた。


「さぁ、頑張ろう」


「最後の思い出、やり切ろうね」


 クラスメートの会話が聞こえてくると、私へのプレッシャーは更に高くなっていく・・・・・・もう間違えられない。


 その時・・・・・・


〝チッ チッ チッ チッ〟


 メトロノームの音だ。妙に気になり、ピアノ演奏に支障をきたす・・・・・・今回は止める事にした。


 〝チッ チッ チッ チッ〟


 しかし、また音が鳴る・・・・・・今度はどこだ?私は周りを見渡した。


〝チッ チッ チッ チッ〟


 音の正体は壁に掛けられた時計の音だった。演奏に集中したいのに耳から離れない・・・・・・


〝チッ チッ チッ チッ〟


 合同練習は続いていく、あの何度も失敗するパートが近づいてくる。


〝チッ チッ チッ チッ〟


 針の音と同時に心臓の鼓動も大きくなる。心臓の音、針の音、ピアノ、それぞれが主張を続け、不協和音となり鳴り響いた。


「ストップ!境さんピアノの伴奏のリズムが崩れてない?大丈夫?」


「ごめんなさい・・・・・・」


 指揮者である学級委員長が止めに入る。だれが聞いてもミスタッチだ私は謝る事しか出来ない。


 何度も合唱を再開させるがその度に針の音と心音は混ざり合い不協和音を響かせた。何度も同じ所で止まる為、クラスメートの苛立ちも大きくなる。


「もう境さん、いい加減にしてよ!歌が進まないじゃない」


 ある生徒が声を上げた。私だって頑張っているのに・・・・・・声を上げたいのは私の方だ。


 両手だって痛めている、サポーターを付けてなんとか痛みを誤魔化している状態だ。


 この曲は難しいと私は言っていたのにみんな聞いてくれなかったくせに・・・・・・


「辞めてよ、境さんだって頑張っているの私は知っている!」


 別の生徒が私を庇う・・・・・・私のせいでクラスは険悪なムードに包まれる。


〝チッ チッ チッ チッ〟


 その時だって針の音は止まること無く鳴り響いている。私の鼓膜にまとわりつくように感じた。


 私は何とか気持ちを抑え、声を上げる。


「ごめんね、もう一度がんばるから・・・・・・」


 ここから投げ出すことなんか出来ない。


「でも、ちょっと待ってて・・・・・・」


 私はそう言うと立ち上がり、壁に掛けられた時計を外し、電池を抜いた。クラスメートは不思議な表情で私を見ていた。

 

「ごめんね・・・・・・ちょっとうるさくて・・・・・・さぁもう一度」


 針の音は止まり、なんとか不協和音は無くなった。そこで初めて完奏出来た。私は心底ほっとした。時計を外せば、何とか演奏出来そうだ・・・・・・


「境さん、やったね」


「良かった、境さん、強く言ってごめんね」


「本番も頑張ろうね」

 

 また安っぽいドラマが繰り広げられた・・・・・・私の苦労も知らないで。結局、私はこの青春ごっこに付き合わされると考えると吐き気がした。


 その時だ・・・・・・


〝チッ チッ チッ チッ〟


 針の音が聞こえた気がした・・・・・・気のせいだろう。時計は止めたはずだ。


 合唱コンクール、本番はもう近い。



 ――鳴り響く・・・・・・ 考察――


 彼女は合唱コンクールに相当、神経をすり減らしている。確かに両手を痛めてまで練習して、演奏を指摘されるのは気が滅入る。


 彼女はしきりに針の音を気にしていた。


 彼女は聴覚過敏が見られる。きっと合唱コンクールのピアノの演奏がストレスとなりその傾向がより強くでてしまったのだろう。


 私も疲れている夜は時計の針が気になり、眠れない事がある。彼女の普段の生活へ悪影響は出ていないだろうか?


 引き続き、彼女の話しへ耳を傾けた・・・・・・

 



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