調書2 仮面の下
高校生に上がると、環境は大きく変化する事になる。
目標を持ち勉学へ力を入れる者、アルバイトを始め世界を広げる者、部活動へ打ち込む者、中学校とは違い、行動範囲も増え、全く違う景色が広がる。
私も、変わりたい・・・・・・
私は周囲の変化を感じ、いじられ役だった今までの過去を捨てて、本当の自分を出していきたいと強く感じていた。
今までの、馬鹿にされ、からかわれ、笑われる・・・・・・そして自分を守る為に、笑顔の仮面を被りピエロになる。
そんな、自分に別れを告げるのだ・・・・・・
高校に入ると中学校の人間関係も一新される。そのタイミングがチャンスだと思った。
「あっ、小西じゃん。また高校でも笑わせてね。よろしく」
少人数ではあるが、同じ中学校の人間が話しかけてくる。好きで笑わせていた訳では無い。自分を守る為に無理をしていただけだ。
「うん・・・・・・」
私は素っ気ない態度で返事をした。これが新しい自分を作る第一歩だ。
「なんか素っ気ない・・・・・・小西、なんか変わった?」
そう、私は変わったのだ・・・・・・
「別に・・・・・・じゃあ授業の準備があるから」
私はなんとかその場を離れるような嘘をついた。早くこの場から立ち去りたかったのだ。
「なんか小西、変な感じ」
彼女はそう言うと鼻で笑った・・・・・・馬鹿にするような嫌な笑い方だった。
笑われた・・・・・・
笑われた・・・・・・
笑われた・・・・・・
笑われた・・・・・・
何度もこの言葉が頭の中で繰り返される・・・・・・私はこの考えを頭から消し去った。変わらないといけないのだ。
笑われた・・・・・・
笑われた・・・・・・
笑われた・・・・・・
笑われた・・・・・・
しかし、言葉は消える事なく、ぐるぐると回り始め、声の大きさは次第に強くなっていった・・・・・・
今までの性格を改め、無理に気を使い、ピエロになる事を辞めた私の生活は、変化を見せる。
中学生の時は、周りに友人が溢れていた。良くも悪くも、この性格のお陰で孤独にならなくて済んだのだ。
しかし、今の私の周りには誰もいない・・・・・・
素の自分を出す事で友人は離れ、だからといって、新しい友人も出来る事はなかった。私の高校生活は惨めで寂しいものだった。
私は葛藤した・・・・・・
本当の自分を押し殺し、仮面を付け、ピエロを演じて偽りの仲間に囲まれるか、素の自分を曝け出し、仮面を取り、孤独に生きるか。
どちらも地獄であった・・・・・・
私は一体どうすればいい?
どっちを選べばいい?
分からない・・・・・・
今は、授業中だ。しかし、教師の話しは頭には入ってこない。頭の中は混乱していく・・・・・・その時だった。
「ははは・・・・・・」
誰かの笑い声が聞こえてきた。私は周囲を見渡してみる。しかし笑っている人間は何処にもいない。みんな静かに授業を受けていた。
気のせいか・・・・・・私は前を向いたときだ。
「ははは・・・・・・」
まただ、誰かの笑い声が聞こえる。
気のせい、気のせい、そう何度も自分に言い聞かせながら授業を聞いていた。
また体育の授業の時だった。チームを分け、バスケットボールの試合が行われる。私はバスケットボールは得意分野だった。
しかし、中学生の時は周りに気を使い、思ったようなプレイが出来なかった。ボールが回っていないクラスメートがいればパスを出し、独りよがりなプレイは避けてきた。
私は変わりたいという思いと、孤立した高校生活から、なんとか自分を目立たせたいという思いから自分本位なプレイをしてしまう。完全に空回りをしてしまった。
「おい、小西。上手いのは分かるが、もっと周りを見てプレイしろよ」
体育の教師からその姿を見かねて注意をされる、周りの冷たい視線が集まってきた。
そうか・・・・・・私は、本来の私を出しては駄目なんだ。
素の自分を出せば孤立する。しかし、孤独は耐えられない。
もう一度仮面を被ろう・・・・・・
素の自分を隠し、笑って誤魔化して生きていこう・・・・・・
そして自分を忘れてしまえばいい・・・・・・
そう思った瞬間・・・・・・
「ははは・・・・・・」
誰かの笑い声が聞こえてきた、周囲を見渡してみるが誰も笑っている者はいない。
「ははは・・・・・・」
まただ、確かに〝私〟が笑われている。
笑われた・・・・・・
笑われた・・・・・・
笑われた・・・・・・
笑われた・・・・・・
またこの言葉が頭の中をぐるぐると回り始めた・・・・・・
――仮面の下 考察――
〝 笑われている気がする〟と言う思い込みは不安や恐怖から生じる事が多い。
彼女の自己肯定感の低さからくる幻聴だったのだろう・・・・・・
本来の自分を出した事による周りの反応が自分の考えていたものと異なり、彼女は混乱しているようだ。
環境が変わり、思春期の中、情緒が不安定になっている。
仮面を被る妄想は捨てた方が良い。
素の彼女もいじられ役の彼女も、どちらも素敵な彼女だ・・・・・・どうにか彼女に伝えないといけない。
私は彼女の様子を見つつ、次回のカウンセリングに備えた。
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