第5章 森の中で
相談者 清水あや
宮田すずさんのカウンセリングを終えた辺りから、私自身も徐々に、体調を崩してしまう。
とても、奇妙な相談内容が続き、上手く対応出来ない事に、精神的に疲れてしまったのだ。
自分自身でケアをするのは困難な為、実の所、精神科へ通いだしていた。
カウンセラー自体が精神を病む事はよくある。やはり、患者に感情移入したり、気が滅入る話しを多く聞くと精神的には良くない。
相談室に扉を叩く音が響く・・・・・・駄目だ、生徒にこんな姿は見せられない。私は襟をただした。
しっかりと気を取り直し、返事をする・・・・・・
「どうぞ、お入り下さい」
ゆっくりと扉が開いた。とても優しそうな雰囲気の生徒だ。彼女は酷く落ち込んでいる。それは相談内容を聞かずとも伝わってくる。
今回の相談者は清水あやさんだ。私はいつものように椅子に座ってもらい飲み物を勧めた。
「こんにちは。どうぞお座りください。ミルクティーかコーヒーはいかがですか?」
「ありがとうございます。では、ミルクティーをお願いします」
机の上にミルクティーを置くと、私は俯く彼女に話し掛けた。
「随分、落ち込んでいますね。大丈夫ですか?」
彼女はずっと、下を向いている。何かよほど辛いことがあったに違いない・・・・・・しかし、ここで無理に聞くのは良くない。
「ゆっくりで構いませんよ、なかなか話しにくい事もあるでしょう・・・・・・無理はしないでください」
彼女は制服の胸ポケットから一枚の写真を取り出し、私に見せてくれた。写真には一匹の可愛らしい猫が写っていた。真っ白で美しく、それでいていたずらそうな白猫だった。
「とても可愛らしい猫ですね、そして、美しい猫だ」
「ありがとうございます」
写真に対し、思った通りの感想を口にすると、彼女はとても嬉しそうに笑った。その表情だけで写真の猫に対する深い愛情がひしひしと感じられる。
「この猫の名前は何ですか?」
「この猫は、シロといいます」
「偶然ですね。先生も昔、猫を飼っていました。やんちゃなオスの黒猫で名前はそのまま・・・・・・クロです。毛色が真っ黒だったので、その名前にしました。清水さんも、毛色で名前を付けたんですか?」
「はい、あまりにも真っ白で、安直ですがシロにしました。それしか名前が浮かびませんでした。でもぴったりな名前だと思います。偶然ですがシロもオスなんです」
しばらく猫好き同士の会話が続き、打ち解ける事ができた。もう、この時点で彼女が何故、相談室の扉を叩いたか、私には分かってしまった。
そして、彼女はゆっくりと悩みを打ち明けてくれた・・・・・・
「実は、先週シロが亡くなりました・・・・・・」
やはり、そうだ・・・・・・愛情を注いだペットが亡くなる事程、辛いことは無い。それこそ良く聞く〝ペットは家族〟はまさにそうなのだ。私には痛いほどに辛さが分かる。
「そうですか・・・・・・それはとても辛いですね。私も猫を飼ってた身です。痛いほどわかります」
私が彼女に声を掛けると、せきを切ったように泣き出してしまった。私は何も言わず彼女の肩を抱いた。
掛ける言葉なんて持ち合わせていない・・・・・・私は話しを聞くことしか出来ない。
しばらくすると彼女は落ち着いてきた・・・・・・
「清水さん、どうぞシロのお話しを聞かせてください」
彼女はゆっくりと話し始める・・・・・・
※ 以降、ヒアリングした話しを考察を交えて、彼女視点で調書に記す。
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