凪13
鯨井先生が奥に戻った後も、私たちは資料を確認していた。カメラの映像を確認した後、帰り際に先輩が見つけたケースにいろいろな情報の表が印刷された紙が入っていて、
「置いてあるなら見てもいいってことだよね?だいじょーぶ、ちゃんともとに戻せばいいから!」
と、見つけた資料を片っ端から確認していった。私は特に重要そうな情報は見つけられなかったが、先輩はメモを取ったり、スマホで写真を撮ったりしていたので、何かしら見つかったのかもしれない。
それから、情報科管理室を後にした私は、先輩に次の予定を聞いてみることにした。
「それで、次はどこに行くんですか?やっぱり、一昨日休んでたことを隠している松岡先生にもう一度聞きに行きますか?」
さっき聞いた感じでも、結構怪しそうな雰囲気だった。
「んー。いや、もう今日は遅いし、一旦捜査はここまでかな」
「え?帰るんですか?」
「うん。今の状態だと、まっちゃんがなんで一昨日いなかったのかがわからないから」
わからないなら本人から聞けばいいのでは?
「まあ、今日はもう時間がないからね」
スマホを取り出して確認してみると、時刻は17時30分を過ぎていた。
「あれ、もうこんな時間ですね」
「まああのケースの資料二人でほぼ全部見たからね」
でも、確かに夕方だけど、松岡先生はまだいる可能性があるのでは?
「松岡先生って陸上部の顧問だと思うんですけども、部活ならまだいるんじゃないですか?」
「ああ、それはね」
先輩は、スマホの写真アプリを開いて、表を見せてきた。
「ほらここ。今週一週間は陸上部は活動なしって書いてある」
ほんとだ。でも理由などは書かれていない。
「なんでですか?」
「それなしらない」
「あ、はい。そうですか」
どうせなら理由もセットで書いていてほしいものだけど。
「ふぁぁ……今日はもう疲れたし、はやくかえって寝よ~」
先輩は大きなあくびをして、眠そうに呟いた。
「なんでそんなに眠そうなんですか?」
いくら遅くなってきたとはいえ、まだ18時にもなっていない。
「ん。昨日は”ひみつへいき”を作ってたからね~」
「……なんですかそれ」
相変わらず、何を言っているのかわからない。
「じゃあ、ナギちゃん。また明日~」
眠そうなのに、わざわざ「あたしは先輩なので後輩を家まで送っていかないといけないの」と、私を家まで送ってきた先輩は、眠そうな目をこすって手を振っている。
「あの、大丈夫ですか?……気を付けてくださいね。それじゃ」
先輩はなんとか歩いて帰っていった。……途中ですぐ何もないところで転びそうになってたけど。
翌日の放課後、私はまた教室で先輩を待っていた。昼休みに一瞬だけ教室に来た時に、
「今日も一緒に行くからね!ここで待ってて!」
とだけ言い残してすぐに行ってしまった。
まだそこまで時間が経っていないので教室では、クラスメイトたちがいろいろな話をしているのが聞こえる。
「おまえ、『ファンタジーノーツ』の新作買ったか?月曜発売だったやつ」
「もちろん!今回はバトルシステムが前よりもやりやすくなってんだから!」
「そうそう!でもストーリーはイマイチじゃないか?」
「そんなことないよ!6章までやりゃ、今回のが一番!ってなるから!!」
なにやらテレビゲームの話らしい。あまり詳しくないのでよくわからない。
「新曲、でてたよ!」
「うんうん!早速聴いたよ!」
「え?聴いたって、出た時間、さっきの授業中だよ?」
「わたし的には、前の『ファントムハット』のほうが好きかな~」
「あの、話聞いてる?授業中に聴いたの?」
「えへへ~」
こっちはアーティストの新曲の話だろうか。………やっぱり、話を聞かない人ってどこにでもいるんだなぁ。
「ねね、星野椿の新作、投稿されてたよ…!」
「ほんと!?星野先生って、今だとふつーに本屋でも売ってるのに、無料のサイトのほうにも定期的に投稿してくれてて嬉しいよね~」
「そうそう!今回のもあんたの好きそうなやつだったよ~」
「マジで?楽しみ、はやく読まないと!」
これは私の知ってる話だ。web発の小説家で、書籍化で人気になったが、今でもwebで投稿してくれている。SNSの公式アカウントを見ると、新作投稿のお知らせが出ていた、が、私は新作が投稿されたら通知を設定しているので、それよりも早く気付けるけどね。
………にしても先輩はいつ来るんだろうか。もともと、騒がしいのはそんなに好きではないので、どうせならやっぱり私が先輩の教室まで行けばいいのに。……でも今から行ったら、この学校の構造上、階段が二つあるため、すれ違う可能性がある。それはそれで面倒だ。なのでこうやって、廊下の端で待っているしかない。
「…やっぱり連絡先聞けばよかったな」
「連絡先って、解錠さんのですか?」
急に、下向きだった視界に、永谷先生がひょっこり現れた。
「あ、どうも…………なんでつむぎ先輩だと思ったんですか?」
「昨日仲良さそうだったから、あといま私が探しているので」
「ああ……」
前半の理由はこの際置いといて、どうやらまた補習から逃げてるみたいだ。
「先輩、また補習サボってるんですか?昼休みに急いで帰ってたんで、補習あったのかなって思ってたんですけど」
それを聞いた永谷先生は、なぜか首をかしげている。
「補習?私は提出物で確認しておかなければいけないことがあったのを思い出して……」
…よくわかんないけど、先輩は提出物も出してないのかな。
「あ、あと一ノ瀬さん。いま暇かしら?」
「え?………まあ、暇ですね。待ってるだけですし」
ちょっと考えて、まあこんなに待たされてるし、せっかくなら何か手伝いでもしようかなと思った。
「本当?ならお願いがあるのだけれど………」
「まあ、時間がかからないのなら……」
どうせすぐには来そうにないからね。たぶん。
永谷先生に連れられて、職員室まで来た。
「ここにある、段ボールを三階の西端の教室まで持って行って欲しいんです。お願いできますか?」
見てみると、両手で持てるくらいの大きさの段ボールが二つ、重ねて置いてあった。蓋が開いてたので中を見てみると、教科書がどっさりと入っている。
「使わなくなった教科書とか教材なんだけど、後で使うかもしれないものとか予備の教材とかも入っているらしくて、とりあえず処分ができないから三階の空き教室にって」
なるほど。三階の西端は空き教室なんだ。
「……で、これ私が運ぶんですか?」
「お願いできません?実は私、ちょっと腕が……」
そう言って服の左腕の部分をまくると、肘あたりが包帯でぐるぐると巻かれていた。少し血がにじんでいる。
「え、なんですかこれ」
「ちょっとバイクで事故に………」
「え!?」
驚いたことに、この真面目そうな先生はバイクに乗るらしい。まあ真面目不真面目って関係あるのかはわからないけども。ちょっとイメージは違う感じだと思う。
「もしかしてバイクで通勤ですか?」
てきとうに、言ってみた。
「そうよ。よくわかったわね」
なぜか、当たってた。
「え……そうなんですね」
若干引いたのが分かったのか、永谷先生は急いで説明してきた。
「いや、別にいつもは違うんだけどね!そう、ついこの前までは普通の車でだったのよ?でも……」
「車でも事故ったんですか?」
またてきとうに言ってみた。
「…………ええと、そう、です」
またなぜか、当たってた。
「はぁ………こんなんじゃ教師なんてできっこないわよね…………もう最近は徒歩だし………」
かなり落ち込んでしまった。
「まあ、ほら、手伝いますから。誰にも言いませんから」
「………ありがとうねっ!一ノ瀬さんっ!」
そうして三階の空き教室まで段ボールを運んで行くことにした。その間永谷先生に、いつものつむぎ先輩の様子を聞いてみた。
「そうね、確かに英語以外はほぼ満点なんじゃないかしらね。……もっとも、私のテストは大体いつも30いくかいかないか、ってくらいだけど。……私の教え方が悪いのかしら。近江さんもかなり低めだし……」
近江さん…………苗字は知らないけど、先輩と同じクラスの話なのであれば予想がつくかも。
「近江さんって”チカ先輩”ですか?」
私がそう言うと、永谷先生は少し驚いて言った。
「あら、そうよ?よく知ってるわね」
「ええ、まあつむぎ先輩の友達ってことくらいしか知らないですけどね。……あと単語テストが4点ってこととか」
「うん、なんか、うん……そうね」
先生は頭を抱えてしまった…………
何となく、話題を変えておこう………
「えっと、テストはいったん置いといて、つむぎ先輩ってなんで永谷先生のことを『マユミちゃん』って呼ぶんですか?」
「ああ、そうね。昨日も一緒にいたものね。なんでなのかしら、私が何度注意しても直さないのよ。確かに私のフルネームは永谷真由美だけど、普通教師を下の名前では呼ばないわよね?…………え、私の常識が間違ってるとかじゃないわよね??」
……やばい、このままだとどんどん先生の自己肯定感が下がってしまう。
「まあ普通はそうですね。…………たぶん普通じゃないのは先輩だと思うので安心してください」
「良かったぁ…………」
心底ほっとしたようにつぶやいた。………まあ、先輩を普通じゃないとか言ったのは、うん、とりあえずこの際一旦置いとこう。
「先輩ってほかの先生もあだ名みたいなので呼んでますよね」
「そうね、他の先生方も怒ってる人もいらっしゃると思うのだけど…………」
怒られたくらいじゃあやめそうにないよね。
何とか空き教室までたどり着いて、教室のドア近くの机に置いた。
「本当にありがとうね、一ノ瀬さん。大丈夫だった?」
「いえいえ、階段も一階分でしたし…………でもなんで私だったんですか?」
何となく気になった。力仕事なら男子のほうが適任なはずだ。
「ええ、まあ…………実はね、解錠さんってあんまりお友達いなかったのよ」
………何言ってるんだ、って思ったけど冷静に考えてみたら、あの話のかみ合わなさで友達がたくさんできるかっていえばムリな気がする………あれ、でも、
「そうなんですか?さっきのチカ先輩とリン先輩の他にも、なんか調理実習室みたいなところに、”シズ先輩”でしたっけ?とかいましたよね」
永谷先生はまた驚いたように目を見張った。
「ほんとに、一ノ瀬さんよく知ってるわね……まあでも――」
でも………?
「――あなた入れないで三人は少なくないかしら」
「まあ少ないですね」
たしかに、そりゃそうだ。
「え、ほんとにそれだけなんですか?」
「いや、そんなことはないけれどね…なかなか人間関係に苦労してるのかもしれないわ」
そうなのかな…………
「ちなみにこの前シズナさんに聞いてみたところ『友達じゃない』って言ってたわ」
…………まあ、あの嫌われ具合じゃあ、しょうがない、かも?
「……それにね、解錠さんがあんなに明るくなったのってつい最近なのよ?」
「えっ」
全然想像つかない…………
「昨日あなたと一緒にいるのを見て思ったのよ。あなたのおかげなのかしらって」
それは…………
「えと、まあ………だから頼んだってことですか?私のことを知りたいから」
「まあ、そうね」
永谷先生はどこか遠くを見つめるような瞳をしている。
「いやでも、かなり重かったんですけど――あ、もちろん私は持てたので大丈夫ですけどね――男子に頼んだほうが早く終わったんじゃないですか?」
先生は考えて、こう答えた。
「ええとそれは………なんとなく?かしら」
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凪を紡いで たまごろう @tamagorou1221
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