凪10
「先輩、さっきの図書館っての、なんだったんですか?」
一階まで降りて、校舎を出たあたりで、先輩に聞いてみる。
「あーね。だってさ、『事件の捜査に行きまーす』なんて言ったら、危ないって止められるかもしれないじゃん」
まあ、やっぱりそうか。
「……べつに補習から逃げるためってわけじゃあないですよね?」
「え!?まあ、まあそりゃそ、そうだよもちろんね。うん」
とてつもなく目が泳いでいる。
「まあ別に、私は先輩が補習行かないで怒られてもなんも関係ないんでいいですけどね」
「そんな!ナギちゃんヒドい!!」
「…いや、本当に関係ないですし…………あ、あと、さっき最後に聞いてたのって……」
たしか、『昨日の午後一時頃にどこにいたのか』みたいな。
「ああ、あれね」
先輩はポケットから、前に見せてもらった気がする手帳を取り出して開いた。
「ほら、エイジの部屋のカレンダーにメモしてあったやつ」
『13:00永谷先生、15:30松岡先生、16:00リツカさん』って書いてあるけど……あ。
「ね?『13:00 永谷先生』って。つまり、エイジは、事件当日の午後一時に、マユミちゃんと会う約束、をしてた。まあ電話とかの可能性もあるけど」
なるほど、だからさっきそんなことを聞いたのか。
「…ってことは?」
「一応、さっき言ってたのは『単語テストを作っていたから職員室にいた』ってことらしいね」
じゃあ永谷先生が犯人ってことはないのかな。
「あとは、松岡先生って人とリツカさんって人ですか?」
松岡先生は、先生とついているから、この学校の先生なのかな。
「うん、まっちゃんはたぶんあっちに………」
そう言って、先輩と一緒に来たのは、体育教官室と書かれたプレートが付いているドアの前。
「えっと、その『まっちゃん』っていうのが松岡先生ですか?」
「そそ。んじゃあ、ったんたかたんたんっと。失礼しまーす」
………なんか、非常にリズミカルなノックだ。
「解錠、そのなんかリズミカルなノックはやめろって言ってるだろう」
体育教官室の奥のほうから、男性の声が聞こえてきた。ハキハキとした聞き取りやすい声だった。どこかで聞いたことがある気がする。
「まっちゃん、まだあたし名乗ってないんですけども」
「そのなんかリズミカルかノックするやつがお前しかいないんだよ」
背筋がしっかりと伸びた、がっしりとした体つきの、長身の男性教師が奥から出てきた。この人が松岡先生だろうか。
「じゃあ、今のノック、ナギちゃんも見たので、次からはナギちゃんとあたしの二択になるねー」
「あ?ああ。お前は…」
「あっはい、一ノ瀬 凪です。一年一組の」
どこかで聞いたことある声だし、なんかどっかで見たことある気もする。
「お前確か……この前初めての授業で爆速で走ってたよな!?俺の担当の学年じゃないが、ちょうど見かけて、陸上部の勧誘したよ!覚えてるか?なんかその後走って行っちゃったけど。追いかけたんだけど、俺も年か、撒かれちまった」
ああなんか、そんなこともあった気がする。
「ええ!?まっちゃんからりくぶの勧誘とかって、よっぽど速くないとじゃん。てか、まっちゃんのダッシュから逃げ切るとかやっぱナギちゃんめっちゃ速いじゃん。ヤバ」
「若干引いてません?あとその言い方、別に逃げたわけじゃないんですけど」
「おお!じゃあ陸上部入ってくれるか?!」
「あ、いえ、部活とかはちょっと」
「そーいうのを逃げたっていうんじゃない…?」
なんか、先輩にそれを言われるのちょっと嫌だ。
「その話はいいですから!ほら先輩、あれ聞くんですよね??」
話そらされて、私の部活が勝手に決まるのは困る。
「あーそうそう。ねね、まっちゃん。一昨日のことなんだけど」
15:30とカレンダーに書いてあったから、その時間に何をしていたかが重要なはず。
「一昨日の午後一時ごろ、マユミちゃんは職員室にいた?」
「え、15時半のことは聴かないんですか?」
「まあそれもあとで聞くけども、とりあえずね」
先輩の質問について、松岡先生は少し考えた後に答えた。
「どうだったなぁ…………昨日なら覚えてるんだがな」
さすがに一昨日のことまでは覚えてないか………
「じゃあ昨日はどうだった?」
「昨日は授業でいなかったと思うぞ。どこの教室だったかは知らないけど」
「うーん。一応聞いてみたけど、やっぱり一昨日の情報が必要かな…」
他に知ってそうな人はいるかな……?
「あ、そうだ、アイツなら知ってるかもな」
松岡先生はふいに思い出したように言った。
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