凪7

 先輩は赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いた。

「…もう、ナギちゃんが変なこと言うから………」

そんなに変なこと言っただろうか。

「別に、先輩がちっちゃくてぴぃぴぃ泣いてるから、守ってあげたくなっただけですけども」

「な、泣いてないし!ナギちゃん年上に対する礼儀がなってない!」

「年上には気を遣えってことですか?」

「そう!その通り!」

「じゃあ気を遣えってことはやっぱり先輩泣いてたってことですね?」

「ちがう!なんでそうなるの!」

先輩はほっぺをぷくっと膨らませて反論してくる。ハムスターみたい。

「と、とにかく、あたしのことはいろいろ話したし、次はナギちゃんの番だよ!」

……はい?

「なんですか、私の番って」

「あたしの昔のことは話したから、今度はナギちゃんが話す番!」

「え、あの、意味が分からないんですが……」

「なんで!………えっと、ほらだって…あたし、ナギちゃんのこと、全然知らないなって………その、ほら………」

だんだん勢いが弱まって、声と態度が小さくなっていった。小動物かな?

「……そんな全然知らない後輩のために、わざわざ家まで様子を見に来てくれた先輩は、きっと世界探してもめったにいないくらいは良い人でしょうね」

「そこ!よくわからない褒め言葉でごまかさない!うれしいけど!」

「まあ家まで押しかけてきたのはじゃっかん引いてます」

「なんでよ!心配だったんだもん!」

先輩がまた泣きそうなのでここらへんにしとく。

「……まあ、先輩が聞きたいって言うならちょっと話しますけど、あんまり期待しないでくださいね………って、先輩?」

先輩はスマホをいじっている。

「あ、いや。全然聞くよ?聞く準備ばっちり!」

「……録音禁止ですよ」

「なんでわかるの!?」

先輩の手からスマホを取り上げる。録音アプリの赤いボタンが、角の丸い四角形になっており、画面上の時間表示が一秒ずつ増えている。

「いや、何となくで言ったんですけど……あの、先輩…?」

前を見ると、目がうるうるで今にも泣きそうな先輩がいた。

「あの、それはほんとに違くて………」

なんかもうかわいそうになってきた……

「はいはい、もうなんでもいいですから。話しますね、私のこと。って言っても話すことなんてほとんどないんですけどね………」

「……それってどういう……?」

「私、中学までの記憶があんまりないんです。まあ、あるにはあるんですが、友達とか、そんな感じで他の人との記憶がなかったり、どこかへ行ったとかの記憶も全く。ただ平凡な日々の記憶がうっすらとあるだけなんです」

「それって、記憶喪失……?」

先輩は心配そうにつぶやいた。

「わかんないです、元からなかったのかなって気もしてて……でもそんなことってありえないですよね…」

「お父さんとお母さんは…?」

「それもよくわかんないです。いたとは思うんですけど、気づいた時にはこの家に一人でした。普通に生活する記憶はしっかりあったので困りませんでしたけどね」

「……そっか、そうだったんだね………」

先輩は、それがまるで自分のことのように、苦しくて悲しい顔をして。

「じゃあ、じゃあね、あたしがナギちゃんのご両親を探してみせるから!」

「え、あの、別に私寂しいわけじゃないですよ?だって――」

「あたしがいるから?」

「それもそうですけど」

「なにそれ!うれしい!でも、心の奥では寂しいって思ってるんだよ、きっと!」

「そうなんですかね………正直全然記憶がないですから、いまさら見つけても、どんな顔で会えばいいかわかんないです………」

「それでも!………きっと、親子離れ離れは……寂しいよ」

そういえば、さっきの話で、先輩の親御さんの話は出てこなかった。

「あの、先輩のご両親って――」

「まあ!そういうことだから!あたしが絶対にナギちゃんのお母さんとお父さんを見つけるし!今回の事件も解決する!!ねッ!」

……ごまかされた。

「………あの、そういえば最初から言いたかったんですけど」

「ほぇ?なに?」

「なんか今日の先輩のテンション、なんかおかしくないですか?まあそりゃあいつもおかしいっていえばそうなんですけど………」

「………」

先輩は思い出したかのように顔を赤くして俯いてしまった。

「あの、先輩……?」

「………………だもん」

「はい?ごめんなさい、良く聞こえなくて――」

「友達、の部屋はいるのが初めてだったんだもん!」

え、は?

「友達っていうか後輩ですけどね」

「そういうことじゃなくて!…しかもナギちゃんの部屋だし………」

「え?私の部屋だとなんかダメなことあるんですか?」

「ダメっていうか、その、ナギちゃんがあんな………あ、いやそうじゃなくて………」

「え、あの大丈夫ですか先輩?」

「あーもう知らない!帰る!」

先輩は急に立ち上がって、部屋を出て行ってしまった。

「えちょっと、先輩!?」

「お大事に!また明日!!」

玄関のドアがバタンと音を立てて閉まった。

「はぁ、どゆこと………?」

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