凪6
「先生と出会ったのは、あたしが小学三年生のとき。旅行中の列車内で起こった事件を、鮮やかに解決してみせた、美しくて、不思議なひと」
先輩の声は、いつもよりもずっと落ち着いていて、それでいて優しさが飽和している。
「それがきっかけで、あたしは先生の手伝いをするようになったの。最初は小さな事件、それこそ、行方不明の猫探しなんかもやったかな。聞き込みをして入手した情報を先生に伝えて、それをもとに先生とあたしはその猫が行きそうな場所を考えて、居場所を特定するの。そして、先生は自分の推理を教えてくれなくて、あたしは自分の推理をもとに猫を探すの。あたしが考えた場所には絶対にいなくて、先生の推理通りの場所で、日向ぼっこしてる猫を捕まえる。ほかにもね、強盗事件の犯人を追いかけたこともあったなぁ。あたしは運動神経は悪くはないけど平均くらいだからさ、ただ走るだけじゃあ捕まえられないの。だからね、先生はあたしに指示をくれるの。全然真逆の方向へ行けって言ったこともあるんだよ?最初はどうかしてるって思ってたけど、ちゃんと言うことを聞いたら、最後には絶対捕まえられるの。それで最後に、『つむちゃんはまだまだだね♪』ってデコピンしてくるの。ね、すごいでしょ?」
話を聞いていると、どういうわけかその人とはあったことがあるような、そんな不思議な感じがした。それにその人の感じはまるで――
「なんか、いまの先輩の感じとちょっと似てますね」
「ふぇ!?そ、そうかな…?意識してるつもりはないんだけどね、先生みたいになりたかったから、もしかしたら似ちゃってる、かも……?」
どうやら無自覚だったみたい。
「ま、まあそれで。とにかく、先生はすごい人で、あたしは先生みたいになりたくて、先生の助手をしてたんだけどね、先生はいはゆる”病弱”だったから、あたしが事件を調べて、先生がそれについて解く、そんなかんじで事件を解決していったの。先生はいつも病室のベッドで話を聞くだけで解決しちゃう。俗に言う『安楽椅子探偵』ってやつだね」
「その先生って、どんな病気だったんですか?」
病弱というと、病気にかかりやすいのか、病気にかかって弱っていたのか。
「わからない。聞いてもはぐらかされたし、もしちゃんと答えてくれてても、いまならともかく、昔のあたしはわからなかったかも。それでもね、先生の病気を治そうとしてくれた人がいたの。その人、ナギちゃんも知っている人だよ」
私も知ってる人…?それってもしかして………?
「…もしかして、石田先生ですか?」
「そう。エイジは先生のいとこで、もともとはお医者さんだったんだよ」
なるほど、もしかしたらそれで、あの部屋を見て研究について気づけたのかも。
「エイジはね。先生のことをすっごく気にかけてて、薬でどうにか治療ができないかって、頑張ってたんだよ。エイジのおかげで、最初は外にも出れなかった先生の体調も、外出してお出かけだってできるようになったの。すごいことだよね、ほんとに」
たしかに、よっぽどすごい医者だったのかもしれない。
「……だけどね、先生の病気、治らなかったの…」
これまで元気だった先輩のこれが、次第に悲しみを含んだ声に変わった
「それって…」
「うん、あたしが高校生になって少し経ったころ、先生の容態が急激に悪化して……」
先輩の瞳は涙があふれた。
「あたし、何にもできなかった……ずっと一緒にいようって言ったのに……!」
「先輩のせいじゃないでしょう?病気だったんですから」
「でも、あたし、先生に無理させちゃったの、最後。あたしだけじゃ解決できなくて、だから先生を頼って。解決はできたけど、それから先生の体調は……」
「先輩……」
「でも…!あたし、先生からいろいろなことを学んだ。だから、その知識を活かして、もっといろんな人を助けたいって思ったの。だから先生の真似をして、探偵をやってるの」
「そうだったんですね…」
「最近はナギちゃんとも出会えて、あたし、すごくうれしいんだ。また、大切にしたいって人ができたんだから。だからね、もう誰も失いたくないの。たとえ病気であっても、あたしだけじゃ解決で気ないことでも、どうにか助けたいって思うの……だからナギちゃん、ほんとはあなたには、事件にかかわってほしくないの……だからね――」
「教えてくれてありがとうございます。でも私、こんな話聞いたんだから余計に先輩のチカラになりたいです。だからお願いします、私にも手伝わせてください」
「…えへへ、そっか」
先輩は困ったように笑った。
「なんか、先生に初めて会ったときのあたしに似てるかも、今のナギちゃん。わかった、じゃあこの事件、一緒に解決しよう?」
「はい、私が先輩を必ず守りますから」
「ッ!?いまのナギちゃんを危険にさらしたくないって話だったんだけど!?」
先輩はちょっぴり顔を赤くしながら言った。
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