凪4
「うーん、やっぱり一発殴るべきだったかな……」
翌日の昼休み。私は読書をしている、ふりをしていた。結局昨日の施設は何だったんだろうか。石田先生はあとはどうにかすると言っていたが、いったいどうするつもりなのだろうか。何よりあの施設を作った人はなぜあんなものを作ったのだろうか……あと、とりあえずナイフ投げてきたあいつは次会った時には殴るべきか……
「ナギちゃん!…良かった、ちゃんと居た……!」
先輩が大急ぎで教室に来て、私に突進ハグをかましてきた。
「……あの、なんですか”ちゃんと居た”って。私が学校サボるとでも思ってるんですか。あと離れてください」
どうにか先輩を振りほどいて、ちょうど空いてた前の席にちょこんと座らせる。
「ナギちゃんが学校サボるなんて思ってないけどね、実は今日の朝から、エイジが学校に来てないんだってさ、連絡何もなしに」
無断欠勤とやらだろうか。
「それで、なんでそれが私につながるんです?」
私も無断欠席するとでも思ったのか。
「だって、なんか昨日のあの場所を見ちゃったからみんな消されたのかと…」
「どこの世界線の話ですかそれ。そんなの現実に起こるわけ――」
そう言いかけて、昨日の光景を思い出す。大きな水槽のようなもの、あれはクローンの研究だと言っていた。
「……そうそう起こんないですよ、きっと。それにもしそうなら、先輩もでしょう?」
「そうかもだけど…そうかもしれないけどさ、ぜんぜん非現実的なことじゃないんだよ、実際に起こること……」
先輩はいつになく真面目だ。過去に何かあったと思わせるほどに。
「……あ、でもそんなに心配なら、昼休みじゃなくてもすぐに来ればよかったんじゃないですか?」
「う、それはその…………かなって」
「はい?なんて?」
「だから、その、ナギちゃん…怒ってないかなって……」
先輩が急にしょぼんとしてしまった。
「えと、よくわからないんですけど、なんで怒るんですか?私が」
「だって、昨日は本奪って無理やり連れてってそこでナイフ投げられて……」
「ナイフ投げられたのは先輩ですけどね」
「でもでも、『やっぱり一発殴るべきだったかな』って言ってたし………んぁ」
先輩が自分で口元を抑えた。なんで――
「先輩、なんでさっき私が言ってたこと知ってるんです?」
教室に先輩が来る前に独り言で言ったことだから知ってるはずがない。それにけっこう小さい声だったし。
「あ、あっえっと……聞こえたのほら、教室から…!」
「いや絶対不可能でしょ声相当小さかったですよ?」
「あうぅ……」
先輩の目が泳ぐ。
「あと、さっきから私の手元ちらちら見てるのは……?」
手元には昨日先輩が持って行ってた本があるだけ……
「……?ブックカバーの下に何か…」
革製の厚手のブックカバーを外すと、小型の黒い機械のようなものが出てきた。
「……先輩、これは…?」
「ちがくて!ほんとにちがくて!ほら、もしナギちゃんが誰かにさらわれそうになったりしたらすぐ駆けつけれるでしょ?だから」
「だからって後輩の本に盗聴器仕掛けるんですか?」
マジでなにしてんだこの人。
「……………ごめんなさい」
「…よろしい。とりあえず、もうしないでくださいね」
「うう~。ナギちゃん優しいぁ~」
「だから!くっついてこないでくださいって!」
先輩がかなりの力で抱き着いてくる。
「だってぇ、盗聴しても許してくれる後輩なんてなかなかいないからさぁ~」
「盗聴してくる先輩のほうが少ないですよきっと。てか、別に許してはないですからね」
「え!?」
盗聴してくる人許すわけないでしょ。
「でもさっき『よろしい』って」
「そうでもしないと、ずっと盗聴の言い訳ばっかりで話が進まないんですよ。いつも話が脱線しましまくるので」
「あと14個くらいあるよ。言い訳」
「ほんとに怒れってことですか別に私は構わないですが」
「嘘ですごめんなさい本気で」
放課後、私と先輩は石田先生の自宅の前にいた。
「あの、気になってたんですが、先輩はなんで石田先生の住所知ってるんですか?」
また盗聴とかしたんだろうか。
「あ、ナギちゃん『また盗聴したんだろうか』って顔してるね」
私の心の中も盗聴されてるのだろうか。
「ちゃんとね、あたしとエイジは友達なのでね」
そういえば、たしかに呼び方も。
「だからね、ちょっと怖い。また友達が、いなくなっちゃったらって…」
「…………先輩」
「あ、なんかこんな感じ似合わないよね!だいじょぶ。行こ」
先輩がインターホンを押した。
「エイジー。いる?あたしが来てあげたよ~」
中からの反応はない。
「先輩、鍵開いてます」
「……ナギちゃんはここで待ってて、あたしが――」
「ほら先輩、行きますよ」
またナイフ投げられても困るので。
石田先生の家は一軒家で、玄関を抜けると、いくつかの部屋が見えた。
「エイジ!どこー!」
先輩が名前を呼びながら走っていく。
「たぶん、書斎に…!」
家の構造を知り尽くしているのか、すぐにその書斎は見つかった。
「先輩、開けますよ」
「うん」
書斎のドアを開けた先に、石田先生は居た。
壁に沿って置かれた本棚の角から、縄を首にかけて、その命を絶っていた。
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