凪3

 地下室の中は意外にも小奇麗な雰囲気だった。かなりの長さの廊下が続いている。


「うわ~、なんか不気味だね…誰かいたらどうしよっか、ナギちゃん」

先輩が柄にもなく怯えた声で言う。

「誰かって誰が出てくるってんですか」

「なんかほら、敵とか」

…訂正、ちょっと楽しんでるだろこの人。

「まあ、もしなんかいたらこれで」

「まってナギちゃんなにそれ、ナギちゃん?」

「なにってカッターナイフですよ。ほら、さっきの鞄の中に入ってたヤツです。でもこれだとリーチが少し心もとないですね」

護身用に持って来ておいた。

「…ナギちゃんってなんか小学生っぽいとこあるよね」

「先輩に言われたくないですけどね」



 いくつか角を曲がり、廊下を進んだ先には、開け放たれた扉があった。

「……行きますか?なんかすでに開いてますけど」

「開いてるってことは中に人がいるかも……ここがなんのための場所なのかがわかるかも…!」

まあここまで来たら、行くしかない……のかな。


 ドアの先には、たくさんの段ボール箱が積まれていて、先には部屋があるようだ。

「なんだろうここ。段ボールがたくさん…ってふぁぇ!」

先輩が段ボール箱の壁にぶつかって、ゴトゴトと音を立てて一部が崩れ落ちた。

「……っ!誰だ!」

奥のほうから声が聞こえた。

「まって、あたしたちは別に怪しいものじゃなくって――」

先輩が崩れた段ボール箱の中から頭を上げて声を出した、が。


「姿を現せ!」


危ないッ!

カッターナイフで先輩に飛んできたナイフを弾き飛ばす。金属がぶつかり合って鋭い音が鳴る。

「なにするんですか!」

「え、ナギちゃんいまナイフ弾いた?カッターで?え?……うわぁ…」

「あの私助けてあげたんで引かないでもらっていいですか」

なんなのこれ。

「ちがくて!引いたんじゃなくってびっくりしちゃってね…」

「なんだ、じゃあ感謝してくださいね。命の恩人ですから」

「ありがと~ねぇ♪」


「え、は?あの、仲良ししてるところ悪いが、君たちは……?」

気づくと、長身で眼鏡をかけた男がこちらを見ている。

「あ!さっきはよくもナイフなんか投げて……って、エイジじゃん」

「え、さっきのナイフ投擲さん、石田先生?だったんですか」

よく見ると、確かに入学式で見かけた人だ。

「ああ、なんだ。その声、解錠か。それから君は?」

石田先生が私を見た。

「あ、私ですか。一年の一ノ瀬 凪です。先輩のせいでここに連れてこられました」

「えぇあたしのせい!?」

別に嘘は言ってないですよ。


石田の背後を見てみると、大きな水槽のようなものがあった。

「ああ、まあそれはなんとなくわかったが。それで、なんでここに?」

石田先生は怪訝そうな表情をしている。

「あ、それはね……これこれ。この紙、エイジがこれ落としてったから――」

「…それはっ!」

先輩が、さっきの数式とアルファベットの紙切れを取り出した。

「この紙、数式はこの場所を表してるっていうのがわかったから来てみたけど、この部屋に入って、それからさっきの資料とかの内容から…このアルファベットって、元素記号だよねこれ。書いてあるないようから、人間の」

人間、それって……!

「その水槽みたいなもの、それでいったい何を研究してたっていうの?――」

石田先生もしかして、さっきの生命の研究の……


「――この部屋の持ち主は」


……え?

「先輩?この部屋の持ち主は石田先生じゃないんですか?」

「え?ああ、そうそう。この部屋の、というよりこの紙切れを書いたのはエイジじゃないよ」

「でも落としたのは」

「落としたのはそうだけど、エイジはこんな綺麗な字じゃないよ」

「あ、そうなんですか」

そういえばそんな話もどこかで聞いたかも。

「それで、この気味が悪い研究室は誰のものなの?」

「僕も知らないんだ。朝、家のポストに入ってたんだ、いくつかの資料と一緒に。それで、数式を解いてここに来たんだ」

私たちと同じってことですかね。

「それより君たちはなぜ……?」

「だって気になるじゃん」

「ああ、そう……相変わらずだな……」

石田先生、すごくあきれた表情になった。


「ねえエイジ。それで、ここっていったい何を研究してるの?」

石田先生はなにやら苦しそうな顔をしていった。


「おぞましい、気味が悪いものだ。調べてみた結果……ここは、この大きな水槽なんかは、人間の、クローンを作るためのもののようなんだ」


クローン……?

「それって…!」

「先輩?何か知ってるんですか?」

「あ、いやその……エイジが研究してた――」

「僕はこんな!こんな冒涜的な研究なんか……!」

石田先生が急に声を荒げた。


「あ、いや……その、ごめん」

「……こっちこそすまない…それより、おそらくここは危険だ」

「ナイフ飛んできますしね」

「…その件もすまない。じゃなくて、とにかく、ここにはもう近づかないでくれ、あとは僕にまかせて、君たちはもう帰りなさい」

「え、そんな急に」

「行こ、ナギちゃん。あとはエイジがなんとかしてくれるんでしょ?」

「ああ。必ずこの研究の真実を突き止める」

先輩が半ば強引に私の手を引いてきた。


「あ、そうだ。紡、よかったな」

帰り際、石田先生がそんなことを言っていた。

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