「影が笑っていた」

人一

「影が笑っていた」

 目の前の“僕”は、満面の笑みを浮かべて言った。

「ようやく会えたね…“僕”」


「吉太ー夏休みだからって、いつまでもゴロゴロしてないで宿題やっちゃいなさいよー。」

「はーい…」

 母さんからの声が飛んできてしまったからには、もう逃げられない。

そろそろ宿題を始めないと…。僕はゲームをベッドに放り投げ、渋々机に向かう。

「あーあ、暇だな…」

 クーラーの効いた部屋にいても、つい口からは文句が漏れる。

僕は、そんな退屈な日々を過ごしていた。

 とある日の夕方、僕は友達からの電話で昼寝から起こされる。

「もしもし?吉太か?お前、今日プールにいたんだってな。誘ってくれよ~。

 それより、明日も暑いし行くんだろ?一緒に行こうぜ。」

「えっ?僕今日どこにも行ってないけど…。見間違いじゃない?

でもまぁ、そうだね!じゃあ、明日お昼にプールに集合ね!」

 そんな日があるも、退屈な日々は流れていく。

「吉太ー?あんた外にいたなら言いなさいよ。ついでにお使い頼んだんだから。」

「え?僕さっきまで寝てたし、起こしたの母さんじゃん。」

「そうだったわね。見間違えちゃったわ。暑さのせいかしらね。」

 ――母さんの言う通り暑さのせいかな?最近僕の見間違いをよく聞く気がする……まぁ、いいか。

さらにとある日の夕暮れ。僕はお使いに駆り出されていた。

「久しぶりに外に出たけど、夕方なのにまだまだ暑いなぁ…。あれ?」

「おっ、吉太!さっきぶりだな。さっき家に帰るって言ってたのに、またお使いを命じられたのか~?」

「…?何を言ってるの?僕は今日、このお使い以外で外に出てないよ…?また誰かと見間違えたんじゃない?」

「そうか?お前だったような気がするけど……でも確かに吉太だったはずなんだけどな…。まぁ、いいや!気を付けて帰れよー。」

 友達に手を振って見送る。でも、この会話中なんだか言葉にできない変な感覚に襲われていた。

「…なんだったんだろ。あっ、早く帰らないと、アイスが溶けちゃう。」

 僕はその変な感じを“気のせい”として忘れて、足早に家へ帰った。


以前の変な感じも忘れていた、とある日の昼下がり。

また僕は、お使いを命じられていた。

「あーあ、暑いからゴロゴロしてたかったのに…。母さん、お使いに行きなさいって…暑いなぁ…」

 僕は暑さにうなだれながら、スーパーに向かって歩き出したその時だった。

「あっ!吉太見つけた!」

 …え?僕を見つけた?

背後からかけられて、思わず振り返る。

そこには――

「…なんで、僕がいるんだ…?えっ?…どうして……?」

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「影が笑っていた」 人一 @hitoHito93

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