同期の美少女Vtuberが隣の席だった件。

うみも

第1話 初

春の空は、妙にうるさい。


 駅前は新入生でごった返し、校門前では親がスマホで写真を撮り、クラス分け掲示板の前では「一緒だ!」「まじかよー!」と叫ぶ声が飛び交う。


 ──けれど、俺・影山蓮はその喧騒の中で、どこか一歩引いた場所にいた。


 派手なグループに混ざる気はない。陽キャグループに入る気もない。地味に、静かに、目立たず過ごす。

 その方が、都合がいい。


 なにせ俺は、“もう一つの顔”を持っている。


 


 ──Vtuber名義:影蓮(えいれん)。

 主にホラー・推理系の実況を中心に活動している、ちょっと毒舌気味な男性V。


 声には自信がある。編集も得意だ。地味に登録者は一万人を超えていて、コラボの話もぽつぽつ来ている。


 ……そして、つい先日。

 デビューから一ヶ月目にして、俺に“同期”ができた。


 癒し系の声と、天使みたいな見た目をした**雪白みるく**。

 可愛さでバズった直後、歌ってみた動画がトレンド入りして話題に。


 その子と、まさか──


「お、影山って……1年C組だよな?」


「あ、うん。ここ……だね」


 教室のドアを開けると、すでにクラスメイトたちがそれぞれの席でおしゃべりしていた。

 俺の席は窓際の後ろから2番目。個人的にはベストポジションだ。


 そこに座って、ほっと息をついた──そのときだった。


「……あれ?」


 隣の席に座っていた少女が、俺の顔をじっと見つめてきた。


 美少女だ。


 というか、見たことある。


 銀に近い淡い髪色。透き通る肌。ぱっちりとした瞳。

 まさか、そんなわけ──


「……君、影蓮でしょ?」


「は?」


 心臓が、どくん、と跳ねた。


「声、そっくり。間の取り方も話し方も。それに……この前の配信でさ、最後の“ありがとな”って言い方。完全に一致」


 少女──星野しずくは、ポケットからスマホを取り出し、俺に見せてきた。

 そこには昨日アップしたばかりのコラボ配信の切り抜き。そして、コメント欄にこうある。


> 【雪白みるく】今日も影蓮くん冴えてた〜♡


「……お前が……雪白みるく……!?」


「正解。私たち、同期だったんだね。まさか、同じクラスとは思わなかったけど」


 まじか。

 入学初日で、俺の最大の秘密がバレた。


 しかも──


「清楚キャラって聞いてたけど……実物、全然違うじゃん……」


「うるさい。配信の時は完璧な私だから問題ない」


 そう言って、しずくはため息まじりに机に突っ伏した。


「今日もさ、朝ギリギリでコンビニ寄ってきた。家? カップ麺とアイスしかないけど? ていうか昨日の夜も編集してたから3時間睡眠……って、あっ」


 ガバッと起き上がる。


「……言っとくけど、これ誰にも言っちゃダメだからね」


「いや、それこっちのセリフだろ……」


「じゃあ、お互い様ってことで、ね?」


 そう言って笑う彼女は、配信の“雪白みるく”そのものだった──けど。

 そのあと机の中から、朝買ってきたアイスの袋が落ちてきたのは、さすがに笑った。


 


 ──こうして俺としずくの「正体バレバレだけど周囲には秘密」な高校生活が始まった。


 配信では超息ピッタリな同期。

 学校では“他人を装う”隣の席。


 だけど。


 少しずつ、俺たちは気づいていくことになる。


 この“秘密”があるからこそ、誰よりもお互いに素を見せ合ってしまうということに。


 


(To be continued...)

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