其の二 『眠くて、くまってる?』
胡桃子はどんな困難な状況になったとしても教え子たちに分かりやすい授業をしたいという気持ちだけはありました。たとえ目を開けているのが精一杯なほどの強烈な睡魔に襲われながらであったとしてもです。
生徒の前という事もあり気丈に振る舞っていましたが、次第に限界が近付こうとしていました。
これほど眠いのは春だから。春は誰もが眠いと思われますが、とにかく誰よりもこの教室で一番眠いのは自分だと胡桃子は自負していました。だけど、睡魔の原因は春だからということではなかったのです……原因、それは度が越えた食欲。
教師であるのにも関わらず胡桃子は、自らが担当する授業がない時間を利用してコンビニで買い溜めしておいたパンや弁当、お菓子等々を職員室で堂々と広げてコーヒーを何度もおかわりしながらお腹を満たしていたのです。結果、肝心の授業中に眠くなってしまったようです。
気が緩んでしまったのか、気付けば睡魔に敗れて一時の安らぎに身を任せてしまっていましたが、教師としての意地をみせて目を覚まします。
「し、しまった。ついうっかり寝てしまった。せめて方程式を教えておけば自主させておけたのに」
教師として最低とも言える発言を大きな声で言えるのも胡桃子の魅力的な部分でもあります……。
だけど、胡桃子は予想外な光景を目の当たりにました。
なんと生徒達が自主的に勉強していたのです。
自主的に勉強している生徒達の姿に感動し、そして安堵した胡桃子は再び爆睡したい気持ちを抑え……仮眠をしました。
お昼休み、大した授業ができなかったことを反省した胡桃子は改善方法を相談しに知恵乃の待機する保健室へ向かいました。
恋愛相談だけに限らず胡桃子は知恵乃に色々相談しています。それだけ胡桃子にとって知恵乃は頼りになる存在なのです。
「智原先生、今日も相談に……」
「圍先生、顔、顔。相変わらず顔に出てますね」
何時ものように保健室に置かれている手鏡で自らの顔を確認する胡桃子。
その顔には授業中の代償が……仮眠程度では寝たというカウントがされていなかったために、結果的に胡桃子の目の下には想像異常に真っ青なくまが存在していました。
異次元の真っ青さに気分を害し、吐き気と同時に自らの死期を悟った胡桃子は絶望的な表情で目を潤ませながら知恵乃の両腕を鷲掴みして救いを求めました。
「私、死にますか?」
「圍先生、大丈夫ですよ。ただのくまですから。運動したり、お風呂入って血行よくしたり、たっぷり睡眠していれば元に戻りますよ」
「智原先生、私は死ななくて済むんですよね?」
「はい、その通りです」
知恵乃は胡桃子が大人であり、社会人でもあるのにも関わらず今まで化粧を一切せずにすっぴんで生きているのは人それぞれだから仕方ないと思っていました……が、異次元の真っ青さであるくまを居座らせたままの胡桃子の姿を生徒たちが見るには不快であり、酷だと察した知恵乃はオレンジ色のマジックで胡桃子の目の下のくまを塗りつぶして対処してあげました。
知恵乃の優しさと対処に安心した胡桃子は冷静さを取り戻すと同時に日課にもなりつつあるティータイムの準備に取りかかりました。
よって、今回の相談は知恵乃が胡桃子の目の下のくまをマジックで塗りつぶして終わったのでした……。
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