第5話 ダンジョンの正しい歩き方②

 エフ達のいる場所とは離れた通路をカナリアは一人トボトボと歩いていた。


「ぐすっ……エフの分からず屋。いつもポンコツなのに、なにさ偉そうに」


 親の話を引き合いに出されたことは確かに心を乱された。だが、エフに真っ当なことを指摘されて決まりが悪くなったのもまた事実だった。


「ワタシ……すっごいダサいな。何やってんだろう」


 自分にも悪いところがあったことを素直に認められない。それを自覚しても、どうすれば良いか分からない。

 どんな顔をして皆の前に戻ればいいのだろう。


「あれ、そういえばここどの辺りだろう。地図、あれ……ない!?」


 現状を把握してカナリアは青ざめてしまった。エフの言った通りのことが実際に起ころうとしている。


「いやいや、ここを戻ればきっと合流できるって! 大丈夫、大丈夫っ」


 どの道順でこの場所にいるかも今ひとつ思い出せないのだが、カナリアはわざとらしく元気そうに振る舞った。


「!?」


 瞬間、奥の通路を振り向いて体を硬直させた。何者かの気配を感じたのだ。

 

 ゆっくりと弓と矢に手を伸ばし、


(まだ遠い……どうする? こちらから仕掛けるか。いや、このまま来た道を逃げた方が……でも)


 思案するが迷って動けない。

 

 皆と顔を背けた結果、言われた通りのことが本当に起きたので逃げ帰ってきた、では示しがつかないと考えてしまう。

 この状況でもそんなことが頭をよぎる自分の性格を呪った。


「ッ!!」


 緊張で汗がジワジワと吹き出てくる中、通路の奥から何かが飛んできた。




* * *




 エフら3人は必死でカナリアを追うが、地図があってなお手がかりが掴めず焦りを募らせていた。


「クソっ、分岐が多すぎる! 迷路かここは」


 その時、遠くの方から女性の叫ぶ声が反響混じりに聞こえてきた。


「カナリアの声か!?」「こっちだよ!」


 フヅキが声のした方向を察知して、すかさず先頭で駆け出した。その後をエフとイゾウが追う。


「すごいな、フヅキ! 今ので位置が分かるのか?」

「なんとなく、感覚だけどね。早く行こう!」


 通路を幾たびか曲がり、しばらく進むと道の途中に見覚えのある弓が落ちているのに気付いた。


「カナリアの弓だ!」


「ここでカナリアの身に何かが起こった……!?」


「この先……一匹大きいのがいるよ」


 フヅキの敵察知はカナリアの引けを取らない。

 3人は武器を手にして通路の先、開けた場所に進み出た。


「こいつは……植物種!? なんで日光の届かない遺跡内部にいるんだ?」


 そこには巨大に成長した植物を模した魔物が待ち受けていた。足代わりとなる稼働可能な根とそれに支えられた極太の茎、先端には元は只の葉っぱだったであろう部分が変形して複数の袋状を成している。さらに茎の所々から無数のツルが枝分かれして、長い鞭のようにしなっている。


「恐らく、遺跡内部の生き物を養分にして成長してきたのだろう。あの枝のような部位の先端、粘着部分で捕まえていたんじゃないかな。それにこの空間、瘴気が濃い。それも成長に影響したか……俺達はあまり長居できないぞ!」


 イゾウが魔物の形状や周囲の環境を分析して、考察を述べた。


「ということはカナリアはあの袋になっているところのどれかに捕まっているってことか!」


「ああ、可能性大だ」


「じゃあ、カナリアが養分にされる前に助け出さないとだね!」


 フヅキが先陣を切って進み出て、ツルの鞭が幾本も襲いかかるのを器用に掻い潜っていった。

 そして、中距離まで詰めたところで右腕を回し始めた。


「オレも新ワザ、行っくぞー! あぁーん、パーンッ――」


「待った、フヅキ! ストップ、ストップ!!」


 フヅキがワザ名を叫ぼうとしたところを後ろから追いついてきたエフが慌てて制止した。


「なんで止めるんだよ、エフ!」


「そのワザ名はダメだ。マジで怒られるって天啓が言ってる!」


「怒られるって誰に!? あと天啓ってそういうことにも口挟むの!?」


 エフの剣幕と話の内容についていけず、フヅキは困惑の表情をあらわにしている。


「とにかく、後で別の名前を考えよう。僕も手伝うから……な? なんでもさっきの予備動作も相まって、叫び終わった途端に僕ら全員ゲームオーバーになってもおかしくないんだそうだ」


「ゲームオーバー! 即死するレベルなの!? ……ちぇ、分かったよ。せっかくイメージもできていたのに。当たった相手はこう言って吹っ飛ぶんだ。『バイバイk……』」


「やめろぉぉぉ!!!!」


「うわぁ! もうなんなの!?」


 エフの不規則発言に終始振り回されるフヅキであった。


 しかし、当然そんな2人にはお構いなしに魔物の攻撃はやってくる。それを大盾を携えたイゾウが絶妙なタイミングでいなした。


「お前ら敵の目の前でなに揉めてるんだ。集中しろ!」


「だってエフが……って違うか。今はカナリアを助けるんだった」


 3人は体勢を立て直して、改めて植物種の魔物と対峙した。



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