第4話 ダンジョンの正しい歩き方①
旅費稼ぎが必要な勇者パーティは冒険者ギルドの
「カナリア、危ないって。あまり一人で先に行かないでくれよ」
遺跡内部の通路を進んでいく細身の女性カナリアに勇者エフは注意を促した。
「大丈夫よ。敵感知と罠回避に関しては自信があるんだから。エフも知ってるでしょ」
「それはそうなんだけど……」
エフの心配には取り合わず、カナリアはズンズンと先に進んでいってしまう。
「あ! こっちの道、地図にない。行ってみましょ!」
「ああ、もう。言ってるそばから!……なんなんだろう。僕らの目的は遺跡のもっと奥の調査なのに、明らかに関係のない場所にさっきから行こうとするし」
「
カナリアのそんな様子に首を傾げるエフ。その横でガタイの良い優男イゾウが神妙な面持ちで謎めいた言葉を発した。
「フィリ……え、なにそれ?」
「地図上の空間を埋めずにはいられなくなる病気のことで、地図に少しでも隙間があると禁断症状が出てしまうんだ。多くの冒険者が突然これにかかり、ダンジョン内で無理な探索を行った結果、命を落としていったと聞く」
「怖っ!」
イゾウの説明を聞いた年若い少年フヅキはブルブルと体を震わせた。
「カナリアがその病気にかかったかもしれないってことか!? でも、なんで急に?」
「原因は不明だが、純真かつ好奇心旺盛で収集癖のある人物が発症者に多いそうだ」
「そんなの皆当てはまるじゃないか。僕達冒険者の職業適性と丸かぶりだ」
カナリアが向かっていった通路を進みながら、エフは頭を抱えた。
「でも、カナリアって純真とは程遠いと思うよ。収集癖も何かあったっけ?」
「確かにカナリアはいい性格してるけど……いや、待て。小銭集めが趣味でお金に対しては真っ直ぐだ」
「……お前ら、後で怒られるぞ」
エフとフヅキが真芯を捉えたとばかりの表情で互いに顔を見合わせるのを、イゾウは呆れ顔で見つめた。
「きっと冒険者がおちいる職業病みたいなものなんだろうな。治療法というわけではないが、地図を取り上げるのが対応策になる。発症したてなら禁断症状についても問題ないとは思うが、町に戻ってからちゃんと診てもらわないと」
「よし、早く追いついて地図を取り上げよう!」
こうしてカナリアを追うべく勇者パーティは歩を早めた。
* * *
「あれ!?」
通路の奥まで辿り着いて、エフは声を上げた。
「カナリア、いないね」
「ウソだろ……他に道は無かったと思うんだけど」
通路は袋小路となっており、カナリアの姿はなぜか忽然と消えてしまっていた。
「罠にかかった……いや、カナリアに限ってそれはないか。とすると、隠し通路があるのかもしれない。辺りを調べてみよう」
3人は手分けして周囲の壁や床をくまなく調べ始めた。
しばらく経って、奥の壁を触っていたフヅキが何かに反応した。
「2人共、こっち!」
フヅキに呼びかけられて、エフとイゾウはそちらに駆け寄った。
「この部分の石だけ触ると動くんだ」
フヅキの言う通り、石造りの壁の一点だけ固着しておらず、押し込めそうである。エフは2人と顔を見合わせてから、ゆっくりと石に掛ける手に力を入れた。
途端に3人のいる場所の左側の壁の一部が音を立てて地面に沈んでいった。
「およ?」「あぁ、カナリア!」
隠し通路の入口に行方不明だったカナリアが無事な姿で立っていた。
「勝手に扉開いたと思ったら皆だったんだね。良かった、手塞がってたから助かっちゃった」
「心配したんだぞ!」
「まったく、勝手にどっか行っちゃわないでよ」
「えへへー、でも見て見て! 中でお宝見つけちゃったよ。すごいでしょ」
イゾウとフヅキの心配をよそに、カナリアは陽気に両手に持つ布袋を掲げてみせた。ずっしりとした重みがあり、収穫の予感を感じさせる。
「……カナリア、少し話がある」
「エフ? どうしたの暗い顔して?」
「なぜ一人で隠し通路に潜って行ったんだ? 危ないって散々言ったじゃないか」
「さっきも言ったでしょ。敵も罠もワタシに掛かれば余裕で回避できるって。それにこうやって無事に戻って――」
「敵察知も罠回避も万能じゃない。万が一ってこともあるだろう。隠し通路の中で倒れられでもしたら、助けに行かれなかったかもしれないんだぞ。そこを自覚して貰わないと」
「ああ、もう! うっさいなぁ。エフはワタシの保護者か何かなの? そういうとこウザいんだけど」
「ッ……! カナリアはダンジョンでパーティが離れ離れになることの恐ろしさをまるで理解していない!」
相手のうんざりといった態度に対して、エフは語調を強めて言い返した。
「地理に疎いダンジョン内で再会するなんて、連絡手段でも無い限り至難の
「エフっ!」
まくし立てるエフにイゾウが途中で制止をかけた。
エフもハッとして、
「ご、ごめん……言い過ぎた。でもこれはカナリアのためでもあって……」
そう謝罪の言葉を述べた。
言われた当人は押し黙ったまま下を向いていたが、やがて顔を上げた。
唇を噛み、ボロボロと涙を流してエフのことを睨むカナリアがそこにいた。
「うう、なんだよぉ……エフの馬鹿ッ、マヌケ、ポンコツ青タヌキ!! ぅえぇーん!」
「待て、カナリア! 青タヌキさんに失礼でしょうが!」
手に抱えていた布袋を地面に置き去りにして、カナリアは通路を一人走り去ってしまった。
「……年長者の俺に代わって叱ってくれたところ言いづらいが、失言だったな。カナリアが親から捨てられていることは知っていたことだろう」
「……」
「ああ、地図も落としちゃってる。どうしよう、本当に離れ離れになっちゃうよ!」
イゾウに
立ち尽くしたままでいたが、すぐにカナリアの走り去った先を見据えた。
「反省点はある。でも、今はカナリアを追うのが先決だ!」
そう言って、通路を駆け出した。
イゾウもフヅキも互いに頷き合ってエフに続いた。
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