第26話 生死の境で


「くそっ!急げ!ペン汰を安全な所へ運ぶぞ!」

 戦の大勢は決していたが、まだ戦の最中。

 リュウは、ペン汰を後方の安全な場所へ移動させる。

「軍医は、いるか!」リュウがペン汰を寝かせる。

「はい」と軍医がペン汰の傷口を見る。


「これは…」軍医が戸惑っている。

「どうした!止血と解毒を急げ」と、リュウ。


「リュウ様…止血は可能です。ですが…今すぐに解毒するのは不可能です」と軍医。


「なぜだ!解毒薬は、あるだろう」とリュウに焦りがみえる。

「はい、あるには…あります。ですが…この毒は特殊な植物の毒が使用されております。今ある薬では、進行を遅らせるのが精一杯です」と軍医。

「そ、そんな」とレインは、目に涙を浮かべる。


「薬は、どうやったら手に入る?」リュウが軍医に尋ねる。


「この毒の解毒薬を作れるのは、森羅同盟の薬師だけです。ペン帝国では、出回っておりません」と軍医。


「くそっ。ペン汰は…どのくらい持ちそうなんだ」とリュウ。

「…もって1週間という所です…」軍医は、うつむいている。

「…………」レインは、何も話せない。


「……と、とにかくお前は、今できる事を全力でやってくれ!」とリュウは軍医に命令をだす。


「はい!出来る限りのことはやります」と軍医は治療に取り掛かる。


「おい、レイン!泣いてないで、その辺のやつを10人集めてこい。それと中隊長に、あとは任せると伝えろ!俺は荷車を準備する。治療が終わり次第アズリスへ向かうぞ」とリュウは、荷車を取りに向かう。

 レインは、傷の浅い兵を探しにいく。


「レイン!揃ったか?」リュウが荷車を引いて戻る。

「はい!こちらは大丈夫です!」とレイン。


「ペン汰の治療は?」とリュウが軍医を見る。

「応急処置は、済ませました。ですが…首都アズリスまで3日…荷車で行くのですか?」の軍医は、不安そうな表情。

「ここに居ても、ペン汰は助からない!可能性を信じてアズリスに向かうしかないだろ!


 リュウ達は、ペン汰を荷車に乗せて首都アズリスへ向かう。


「ううっ…」ペン汰は、目を覚さない。

「うなされてる…」レイン達は、立ち止まる事なく移動し続けている。

「休まず移動すれば2日で着く!急ごう!」とリュウ。



 ――おじいちゃん…おじいちゃん…どこにいるの…苦しいよ…

 ペン汰は、心の中でおじいちゃんを呼び続けていた。

 んた……ぺ…んた…

 おじいちゃんのこえがきこえる。

 おじいちゃん…どこ…ぼくはここだよ。

 ペン汰はおじいちゃんを呼んでいる

 ぺんた…あきらめ…るな…

 途切れ途切れにおじいちゃんの声が聞こえてくる。

 るい…をたよ…れ

 おじいちゃんの声が聞こえなくなった。

 まって…おじいちゃん…るいって…だれ…

 おじいちゃん…まって…


 ――その、前日。首都アズリスでは、

「森羅同盟国からの使者が訪問にくるのは、今日だろ?準備は出来ているのか?」と外交官達が騒いでいる。

「急な通達で、時間がなかったんだ。準備なんか出来ないだろ。そもそも何の用事なんだ」と貴賓館で、慌て出迎えの準備をしている。


「チッ、このタイミングで何の用だ」とセツがぼやいている。


「セツ様、大使様が到着されました」と外交官。

「もう来たのか。仕方ない、出迎えろ」とセツ。


 外交官数名が外で使者を出迎える。


「遠路はるばる、よくお越しくださいました」外交官は、お辞儀をする。


「お出迎え、ありがとうございます」と使者。


「…では、中へお入りください」と外交官が貴賓室へ案内する。

 

室内には、セツが待っていた。

「ようこそ、ペン帝国首都アズリスへ。まずお掛けください」と豪華なテーブル席へ案内する。


2人が着席すると、セツが話し始める。

「私は、ペン帝国『文官統括のセツ』でございます。将軍階級を頂いております」とセツが挨拶をする。


「これは、ご丁寧に。私は森羅同盟国より参りました。『森の賢者セイノ様』の弟子ルイです」とルイも挨拶を返す。


 (フクロウ属か、確か賢者もそうだったな。それにしても、賢者の弟子だと…厄介なやつが来たな)とセツが冷ややかな目でルイを見る。


 (この人…何だか変な感じ…黒?…いや、確証がないか)とルイは違和感を感じるも、話を続ける。


「今回は、急な訪問のお許しを頂きありがとうございました。今回は、商談に参りました」とルイ。


「ほう、商談ですか。して、何をお探しですか?」とセツ

「はい、今セイノ様が開発している薬に、氷丸ヒョウガンが必要なのです。つきましては、氷丸を少しお譲りして頂きたく参りました」とルイは淡々と話をする。


「氷丸ですか…まぁ、帝国の名産ですからね。あるにはありますが…氷盤から稀にとれる溶けない氷。そうそう出回る物では、ありません」と勿体つけるセツ。


「承知しております。相応の対価を用意しております。先程お預けしましたので、ご確認ください」とルイ。


セツは、係を呼ぶ。

 係が豪華な木箱をセツに渡す。

セツが木箱を開けると中には丸薬が5玉入っていた。

「これは…もしかして…」とセツが焦った顔をしている。


「はい、セイノ様お手製の薬でございます。これらの使用期限を伸ばすために氷丸が必要なのです」ルイは淡々と話す。


「これは、貴重な物を。森羅でも出回らないのではないですか?」とセツ。


「はい、セイノ様が直々に処方された方のみ所持しておられます。今回は、特別にお持ちしました。流行病から解毒薬まであります」とセツを見る。


「それでは、うちの氷丸が無いと、これらの薬は完成しないと言う事ですかな?」とセツは、ニヤリと笑う。


「そんな事は、ありません。あくまで期限を伸ばすための物。薬効には関係ありません」ルイは言い切る。


「そうですか。では、氷丸をご準備致しましょう。2〜3日準備に時間がかかるかもしれません。明日から首都アズリスをご案内致しましょう」とセツ。


「ありがとうございます。是非」とルイ。


「では、今日は、旅の疲れもあるでしょうから、おやすみください」とセツが係に部屋へ案内させる。


 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

 


 


 

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