ひとりぼっち見澤那子は、新聞広告から妖怪画家の砂川露景と夫婦となるが、求められているのは「妻」ではなく「母」としての役割だった――
本作では、感情描写がとても丁寧で繊細に描かれており、孤独に生きてきた那子のさびしい気持ち、家族への憧れ、自己否定する苦しさ、どれも胸に突き刺さってきます。だからこそ、初めは冷たく見える夫の露景をもどかしく思ってしまいます。けれど、那子目線で少しずつ明かされる露景の孤独を知るうちに、似たもの夫婦の二人にすっかり感情移入していました。
そして、夫婦二人の間の陽だまりのような存在・妖狸のたぬ子はとても無邪気でかわいらしく、那子の孤独を癒して、さらに読み手のほうもほっこりさせられます。
また、那子の前にふらりと現れた覚も非常に魅力的でした。さびしい那子を癒やそうとしながらも、あちら側へ誘うような怪しさとちらと見せる真剣さについつい誘われそうになってしまいました。
孤独で自信のなかった那子が、誰かを想うことを知っていく、あたたかな家族ができるまでのあやかし大正ロマンスでした。
時は大正時代。
家のどこにも居場所のないヒロイン、那子(なこ)は、家族団らんに憧れていた。
彼女は腕に不思議な痣があり、それが原因で、見合いをしても結婚までいきつく事ができなかった。
新聞広告の妻募集から、顔も見た事もない男性のもとへ嫁いでいくと……。
そこにいたのは、物静かで風変わりな男性と、仔狸で。
なんと、その仔狸の母親になってほしい、と夫となる砂川露景(すなかわろけい)は言ったのだ。
自己評価が低い、薄幸のヒロインと、感情表現が静かなヒーロー。仔狸のたぬ子ちゃんが生き生きして、子供の可愛さをふりまいています。
この三人は家族となれるのか……?
那子の不思議な痣に隠された秘密とは?
流麗な筆致でかかれた、しっとりすすむ和風ファンタジーです。
母が欲しい。
なんてインパクトのある言葉なのかと思った。
だが勘違いしてはいけない(私はした)
欲しいのは、妖怪画家をしている砂川露景が一ヶ月前に引き取った妖怪子狸の母。
この男――露景はちょっと(いや大分)不器用だと思った。
人間味が欠けたような話し方。ぶっきらぼうな態度。
しかし、狸改め、たぬ子を教育して欲しいと気にかることもある。
夫婦の会話を聞くとハラハラ多数。
もとより、たぬ子の母が欲しいだけで結婚したと言った通り、少々真っ当な夫婦とは言い難い。
ヒロインの那子もちょっと言葉足らず。物おじもしているよう。
しかし、そんな時は、空気なんぞ気にしない元気いっぱいのたぬ子の突撃で緩和される!
もう、たぬ子は癒し。
ちぐはぐな三人家族は三人とも不器用なのがありありとわかる。
そんな三人が少しづつ少しづつ、三人らしい家族の形、絆を築いていくお話。
どうか幸せな家族の形が見つかりますように。
そんなことを願ってしまう――おすすめのお話です。