『トイレの松本さん』 下


 それは、こうです。


 ぼくが、転勤したあとで、東京本社から、かわったボスがやってきました。


 その方は、いわゆるエリートで、世界最高の『南極大学』をトップで卒業し、東京本社に入り、出世間違いなしとされていました。


 しかし、ちょっとしたミスから、不祥事になり、地方に飛ばされました。


 5年我慢しろ、と言われたようですが、エリートの5年のロスは大きい。


 悩み抜いた末、自殺したという、噂があったのですが、どこでどうしたかは、その詳細は公表されませんでした。


 『それは、たしか、Mさんといわれていた。知ってる社員にはお手当てつき、かん口令が出たらしい。という、噂はあった。ふうん。そら、なかなか難しい相手だなあ。しかし、ぼくには話がないな。それは、けしからん。他の人には、いまも、お手当てが出てるのか? まさかな。でも、たしかに、口が固いな。怪しいなあ。かたなしくんを、絞めてみるか。』


 かたなしくんは、唯一、知りあいである若い社員だ。


 

 『わわわわわわわわわ。あの、ぼくがしゃべったなんて、わかったら、この世の終わりです。』


 『ふうん。まつもとさんのうらみを、きみに、向けてもらおうかな。できなくはないかも。』


 『わわわわわわわわわあ、………あやあ。じつは、本社の、あらかわ部長が、あなたを、排除するように、指示したとか。いや、うわさですよ。』


 『おまえ、あらかわのとこにいたろ。』


 『あやあ。いやあ、やましーんさんには、恩がありますし。………たしかに、あらかわ部長が、あなたはほっとくよう指示したと聞きました。はい。なかが、悪いとか………』


 『あいつ、客とのトラブルをぼくに押しつけたんだ。許せないだろ。』


 『はあ。ははははははは。ぼくには、関係なくて。ははははははははははは。』


 『まあな。』



          👿



 そこで、その晩。ぼくは、まつもとさんに、共闘を申し入れたのでありました。


 『きみなあ。人を恨めば穴二つなんだ。きみも、落ちるぞ。地獄にな。ファウスト的契約だ。まあ、引き入れるに触りはないが。』



 以降、ぼくだけは、お手洗いを、使えるようになったのです。


 これは、天国と地獄なのですが、ますます、恨まれる結果になって、ぼくは、追い詰められたのである。


 じつは、会社は裏庭に移動型トイレを密かに設置し、社員に鍵をわたしていた。ぼくには、それが、無かったのである。部長に泣きついてきたら、考えることにしていたらしいとか。です。



 とは言え、ぼくの行く末は、やはり、ますます、不吉になったのでした。


 

 もちろん、これは、単なる妄想である、と、その後、医師は総務課長に、語っているのですが。





          おわり





 これは、フィクションです。🙇🙇🙇


 現実とは関係ありません。


      ………と、申しておきましょう。




























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『トイレの松本さん』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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