第6話
ギルドで冒険者登録を済ませた俺は、初仕事の前にひとまず宿へ戻った。 日も暮れかけていたし、路銀は……少し底を突きかけている。だが、腹ごしらえは大事だ。
今夜は何にしようか?
食堂へ向かうと、本日のおすすめメニューが掲示されていた。 チキンカツサンド照り焼き風、ハッシュドポテト、パンケーキに紅茶のセット。……これは、ケン⚪︎ッキーの記憶が甦るじゃないか!値段は銀貨一枚。安い!
即決したかったが、ちょっと味に不安があったので、この場で賽の目に頼ることにした。
サイコロを出現させ、「せいっ」とひと振り。出た目は――七! 上出来だ!!
俺は食堂でその食事にありつくことにした。
◇ ◇ ◇
店員が運んできたバスケットの中身は、一年ぶりのジャンクフード!!
まずはチキンカツサンドから。 ホカホカに焼かれた分厚いパン、小麦色の香ばしさが漂う。 そして挟まれているのは、爽やかな大地の味をたっぷり含んだキャベツの千切りと、照り焼き風味のチキンカツ!
照り焼きソースの甘じょっぱさ、サックサクの衣、香ばしい肉汁。 キャベツの優しい旨味が加わり、脂のコクと食感が一体となって胃袋を満たす。二口、三口と齧って――一旦手を止める。
今日はハッシュドポテトもある。
揚げたて、塩気がしっかり効いたふわふわのジャガイモは、外はカリッと、中はとろける柔らかさ。 このジャンク感、なんでこんなに癖になるんだろう?
残ったチキンカツサンドと一緒に口へ放り込む。しあわせ。
そして、今日の締めはスイーツ――パンケーキ!
職人が丁寧に捏ねた白い生地に砂糖が練り込まれ、ふわふかの狐色に焼き上げられる。 たっぷりのシロップと、とろけるバターがのった見た目は、まさに王道の一品。
ナイフとフォークで切り分け、口に運べば、ふんわりした食感に程よい甘味が溶け合い、胃の中まで満たされていく。 やっぱりスイーツは最高!それもパンケーキは格別!
これを紅茶と一緒にいただくのが贅沢の極み。もちろんストレートで。
宿泊代と朝食代を含め、出費は銀貨二枚と銅貨五枚。悪くない。 ……ご馳走様!
◇ ◇ ◇
ギルドの掲示板には、依頼書が所狭しと貼られていた。 最下層の薬草採取から、中級の魔物退治まで。ランクでいうと、GからCくらい。
以前にも触れたが、スタインウェーには偽英雄一行が溢れている。それも国が平和だからこそだろう。
ドラゴンやグリフォンなんて、俺からすれば御伽噺の中の存在。 パーティにいた頃も、「野良オーク」や「下級スライム」を倒すくらいだった。
Cランクの依頼が「ゴブリンの集落一掃」なら、Gランクは「コスモ草」の採取。 これは傷口に塗る薬草の原材料だ。
俺のランクはG。まずは「コスモ草」を集めるところから始めよう。
「コスモ草の群生地は、クシフィリヌス街の南か。報酬は銀貨一枚……モンスターも出るって? まあ、スライムくらいならなんとかなるだろう」
ちょっと不安になったので、ここでもサイコロを振る。
願いを込めてサイコロを召喚、「せいっ!」とひと振り。出た目は――十! いい目だ。これは期待できるぞ!
よし、最初の任務を成功させよう!
◇ ◇ ◇
クシフィリヌスの街を出て南へ向かうこと数十分。 草原が広がる野原に到着。だが、コスモ草探しは骨の折れる作業だった。 見た目が普通の草とほぼ変わらない。
「軍手が欲しいな……手袋、街に売ってたかもな。今後こういう仕事増えそうだし、準備はしておくべきか」
草を見極めながら歩き回る俺。似たようなものばかりで、正直判別が難しい。
「たぶん……これだろう」
そう思って摘んだ草をアイテムボックスへ。
サイコロが十だったこともあり、ツキは俺にあるはず―― と、油断したそのとき。
「出た!! スライムだ!」
慌てて腰の剣を抜いた。まるで昔やったゲームみたいだ。脳内ではBGMが自動再生。
こんなときこそ「賽の目」に頼らなきゃ……! 落ち着いて、サイコロを振る。出た目は――十二!すごく良い目だ。
最近、ツキすぎてる気もするが、これは勝てる流れ……戦うぞ!
「せいっ!」
掛け声と共に剣を振る。しかし、スライムは器用に避けた。 二度、三度と振っても、スライムはヒョイヒョイかわす。
その瞬間、大ジャンプしたスライムが酸を飛ばしてきた!
俺は素っ頓狂な悲鳴を上げつつ、それをギリギリで避ける。
――が、その拍子に緩い傾斜へと背中から転がり落ち、大岩に激突。動きが止まる。
「……スライムって、こんな強かったっけ? いや、俺が弱いだけか。今までよく無事だったな……」
沈んでる場合じゃない。戦うんだ!
キリッと体勢を立て直し、スライムへ剣を向ける。
「銀貨一枚の草に対して、俺のこの心境……割に合わなさすぎだろ。足が震えてきた……」
『そうだよ、少し落ち着きなよ』
……だよな。スライム一匹だし、俺は冒険者なんだ。怯むな。
そう思ってスライムを睨みつけた瞬間――
スライムは驚いたような様子で、勢いよく跳ねてその場を離れ、姿を消した。
「え……俺、勝った……?」
その瞬間、どっと緊張が解けて冷や汗が噴き出し、その場に崩れ落ちる俺。 時間にしてわずか五分の攻防。よく耐えた……!
でもなぜスライムは逃げた?俺、そんなに強そうだったか……?
「おい、そこの人間」
不意に、頭上から声が降ってきた。見上げると――
「お主だ、人間」
そこにいたのは、烏の濡れ羽色のような艶やかさ。 氷結のような煌めき、鋭く白銀に輝く牙。 身の丈三メートルはありそうな、異形の巨体がこちらを覗いていた。
――その瞬間、俺は心の底から思った。
「終わった……俺、死んだかも」
名前 袴田恭(ダヤン)
称号 異世界転移者
年齢 28
レベル 6
知力 200
体力 150
魔力 0
紋章術 なし
従属 魔剣ティルフィング
保有スキル 賽の目 アイテムボックス
加護 蔑むものを超える力
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