第2話

 翌朝、俺は仕事を探しに職業案内所を訪れていた。


 今まで冒険者一行の荷物持ちしかしてこなかった俺に、めぼしい仕事はそうそう見つからない。 それでも、なんとか日雇いの仕事を紹介してもらえた。ありがたい。  今の俺には、それで十分だ。


 仕事は配送業務――日本でいうところの「郵便配達」みたいな感じだ。

 

 それにしても、昨日までの自分が嘘みたいに、心は晴れやかで穏やかだ。 何があったのか、自分でも不思議なほどだった。

 

 配送は主に、魔力を持たない一般庶民が担う体力勝負の仕事。 歩く、走る――それなら任せろ。今まで冒険者として培った脚力が活かせる。

 最初の任務は、ご老人が息子に宛てた手紙を届けるというものだった。

 広大なスタインウェーの街を駆け抜け、宛先に手紙を渡し、サインをもらって戻る。 ひたすらその繰り返し――不思議と、疲れは感じなかった。


 そんなとき、ふいに頭の中で声が響く。


<我は運命を司る女神フラグネット様の使い、ルディ。  加護『蔑む者を超える力』を授かったお主は、これよりスキル『賽の目』を発動させる機会を得た>


 ……なんだ、この声。運命の女神? 俺にはスキルなんて無かったはず――いや、確かにフラグネット様の加護は授かった。


 『賽の目』……? よく分からないけど、女神様が俺にくださった力。 今こそ、それを使うときなんだな!


 俺は心の中で「ありがとう」と答えた。


 その瞬間、腹のあたりに眩い閃光が差し込んだ。 あまりの輝きに目が眩みそうになり、気づけば叫んでいた。


「うわあああああ!!!!!」


 光が収まり、目を細めながら見上げた俺の前に、四角い物体が二つ浮かんでいた。


「ん……? これは、もしかして……」


 おそるおそる手に取る。 正方形の面には黒と赤の円がランダムに並んでいる。不揃いな模様――これは。


「サイコロ……?」


<うむ!フラグネット様は知性溢れるお方じゃ! お主にふさわしいスキルを授けてくださったのじゃ!>


 賽の目って、あのボードゲームのスゴロクで使うやつか? 家族や友達と遊んだあの頃を思い出す……


<光栄に思うがよい!>


 あのさー……俺の人生ゲームじゃないんだけどな〜!! ――喜びも束の間、俺は思わず落胆してしまった。


<たわけ者!! フラグネット様の好意をなんと心得る!!  ならば試しにその駒を振ってみるがよい!>


 甲高いルディの一喝が脳内に響く。女子の声って、なんでこんな耳に突き刺さるんだろう。 仕方なしに、右手に握ったサイコロを振る。

「せっ!」


 吐息とともに投げたサイコロが、地面を転がり――

出た目は『八』。


 ……良いのか悪いのか、さっぱり分からない。 この先「八歩」進めってことなのか……?


<『八』とはまた良い数字が出たのう! 今日のお主の日当、かなり良いぞ!>


 ――えっ!? マジか!? サイコロを振っただけで!? 俺は目も耳も疑った。


 その瞬間、サイコロは地面に吸い込まれるようにして消えた。


 「発動の機会を得た」と言っていたが……これって、発動条件があるのか? 俺は心の中で問いかけてみる。


<『賽の目』は、お主が願えばいつでも現れる。  せいぜい、人生を楽しむのだな>


 なるほど。 今日は歩き詰めだったし、これで業務もラスト。 雇い主のところへ戻るだけだ。


 それにしても、『蔑む者を超える力』って……一体、なんなんだ?


<それは、フラグネット様が、お主の不憫さに同情し授けてくださった加護。  どんな侮蔑にも、立ち向かい乗り越える力を授けたのじゃ!>


 ――侮蔑。あの、パーティーから追放されたことか。

 そういえば、今朝目覚めたとき、妙に気分が晴れていた。 すっかり一行のことなんて忘れかけていた気がする。


 泣き崩れた昨日の俺を、もう別人のように感じるのは、この加護の力かもしれない。

 これは……面白くなってきたかも。


 俺は、雇い主のもとへ向かった。


「やあ、ダヤン! 今日もたくさん働いてくれてありがとうな!  少ないが、これが日当だ。受け取ってくれ!」


 そう言って渡された麻袋――見ただけで、いつもより膨らんでいる!

中を覗くと、金貨十五枚!!!


「えええええええ!!!!!!」

 

 ギルドの報酬でも、こんなにもらったことなかったのに……!


<どうじゃ、『賽の目』のありがたみは>


 いや、ルディさん。俺が間違ってた。猛省……! フラグネット様にも感謝しかない!


 『賽の目』か……。出た目によって、運命を動かすスキル。 これ、使わない手はないでしょう!

 この力を駆使すれば、いつか行こうと決めていた地にも辿り着けるかもしれない。  夢じゃないかもしれない。


 正直、迷っていたんだ。 このまま日雇いで生きるか――それとも、もう一度、冒険者になるか。


 決めた。 俺は、ひとりでも冒険者を目指す!


名前 袴田恭(ダヤン)

称号 異世界転移者

年齢 28

レベル 6

知力 200

体力 150

魔力 0

紋章術 なし

従属 なし

保有スキル 賽の目 アイテムボックス

加護 蔑むものを超える力


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