星
昔々のことでございます
星々がまだ若く手を取り合って生きておりました
時代の話でございます
所々記憶のさだかでないのはどうぞ大目にみてくださいましね
さてもさても
宇宙は未だ渦巻き、光より闇にこそ真理は輝いておりました
光は闇を羨んでおりましたが、闇は光を慈しんでおりました
丁度幼子を抱く母のように
闇は光に一人一つの欠片を与えました
光は欠片に宿り、星と名のりました
星よ、と闇が呼べば
宇宙に無数ある星々は懸命に応えて輝きました
ある豊かな夜のことでございます
夜、と申しましても未だ朝の無い時代のおはなしでございますから
ここはただ闇とは違う暗さを
夜、と呼ぶことにいたします
闇は愛する星々に語ります
星よ、私の命よ、
あなた方の煌めきを感じるとき
わたくしは、はじめてわたくしの存在を感じるのです
さあ星よ、どこまでも光を届け
そこにわたくしの存在をつくっておくれ
星は闇に応えて懸命に懸命に輝きました
その中で一等輝くものに闇は新たな名を与えることに致しました
シリウス ベガ アルタイル
アルデバラン スピカ ポルックス
全部で21の名が与えられたころ
夜の端に小さな小さな星が生まれました
輝きはほとんど見えないほど鈍く
周りの星々の前には、まるで存在しないかのようでございました
この星を、彼、と呼ぶことにいたしましょう
闇はその小さな彼が生まれたことを他の星と同じに嬉しく思いました
星よ、わたくしの小さな星
あなたの誕生はわたくしの喜びです
あなたが生まれるとき、わたくしもまた生まれるのです
けれど悲しいことに
しゃらしゃら、きゅりきゅりとはしゃいでまわる他の星々に阻まれて、彼の方が闇の祝福に気づくことができませんでした
小さい彼は深く、深く悲しみました
自分は何とちっぽけだろう
生まれたことを祝ってもらうどころか、気づいてもらうことすらできていないのだ
きっと生まれてこない方がよかったに違いない
その様子をみて闇も深く悲しみました
彼に何としてもこの愛を伝えなくてはと決意いたしました
彼が己の輝きを知るには
もっと深い暗闇にならなくてはいけない
闇に夜が張り付いてより一層暗くなりました
しかしここで困ったことが起きました
明るい星々があまりの暗さに闇を見失ってしまったのです
星々は狼狽え惑い、ぶつかりあって砕けてしまいました
彼を除いては
宇宙の惨状を前に闇はさらに深く悲しみました
わたくしの浅はかさが
より大きな悲しみを生んでしまった
星を失っては、わたくしは存在できないというのに
彼は慌てて闇の元へ駆けました
闇よ、どうぞこれ以上悲しまないで下さい
わたしがこの小さな体の全てで何とかいたしましょう
咄嗟にそう申しましたが、それはまるではじめから決まっていたことかのようにすんなりと心に収まりました
あぁ、そうだ
ぼくはこのために生まれたのだ
辺りを見渡し砕けた星たちに呼び掛けました
兄弟よ、どうぞ力をかしておくれ
ちっぽけなぼくに力をかしておくれ
砕けた星々は最後の力を振り絞って
彼の周りをぐるぐると巡りはじめました
ぐるぐるぐるぐると巡るたび
彼の輝きは増していきます
最後のひとかけが彼のもとにたどり着いたとき
ありったけの力を込めて輝きました
するとどうでしょう
闇に張り付いた夜が剥がれたではありませんか
砕けた星も新しい体を得て
いきいきと輝きはじめました
まばゆい光の最中、彼は闇に呼びかけます
闇よ、わたくしの愛する人よ
わたくしは朝、あなたの悲しみを照らすものです
朝よ、わたくしの朝
あなたの誕生を今一度祝福します
あなたがあってわたくしがある
世界は今はじまりを迎えました
こうして闇は朝に出会い
わたくしたちの世界が誕生したのでございます
これから先、数多の物語がございますが
それはまた必要なとき必要な分だけお教えいたしましょう
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