迷惑な隣人
仁城 琳
迷惑な隣人
またか。夕食を食べているとふと視線を感じる。目が合った瞬間そいつはすっと引っ込む。
「はぁ…。そろそろ引っ越すかなぁ…。」
カーテンをしっかりと締めながら呟いた。このアパートに引っ越して数ヶ月。会社からも近いし、仕事して帰ってきて飯を食って寝てまた飯を食って仕事を行くだけの俺にとっては狭いが新しくはないが綺麗で良い部屋だった。家賃だって安い。しかし一つだけ厄介な事があった。隣人だ。隣の部屋に隣接した窓、部屋から身を乗り出しているのかそこからこちらの部屋を覗いてくるのだ。目が合えばすぐに逃げるからどんなやつかと思い、部屋の入口からこっそり覗いて様子を伺うと俺よりも少し年上の女だった。覗きとかって普通女が男にやられるもんじゃないの?と思っていたのが偏見だと気付いた。俺みたいな特別かっこよくもない普通の男でもこういう被害に遭うんだな。とんだ変態女の隣に引っ越してきてしまったもんだ。そろそろ、かなりストレスになっているし引っ越したいがこのアパートは気に入っている。今より好条件の物件に出会えるだろうか。なにより隣人の迷惑行為で引っ越す事になるのが癪だ。一度管理人に相談しよう。注意されてやめてくれるか、やめなくても何度も繰り返されてその都度管理人に訴え続ければ強制退去にでもならないか。俺は明日の朝管理人に相談しようと決めて眠りについた。
翌朝、出勤前に管理人に会いに行った。
「窓から覗き、ですか?」
「はい、ほぼ毎日なんですよ。どうにかならないですかね。その、注意とか。」
「はぁ。気の所為じゃないですか?」
「気のせい?いやいや一度じゃないんですよ?毎日ですよ?気の所為なわけないじゃないですか。」
「いやぁでもね、あなたの隣の部屋、誰も住んでないですよ。」
「…は?」
確かに。隣には引っ越しの挨拶に行っていない。誰も住んでいないから。だったら誰なんだ?
「もしかして…不審者ですか?だったら尚更問題じゃないですか。」
「不審者って。どうやって覗くんですか。」
「だって隣人じゃないなら不審者としか考えられないじゃないですか。」
「でもその窓ってベランダの所じゃないでしょう。だったら覗けないですよ。あなたの部屋、四階でしょう?」
一応警備は強化しますがね。本当に不審者だったら大変だ。念の為戸締りはしっかりして。と言う管理人の声が徐々に遠ざかっていく感覚に陥る。確かにそうだ。どうやって覗くんだよ。壁に張り付いて?四階の部屋の窓に?無理だろ。
「…やっぱりそろそろ引っ越すかぁ…。」
迷惑な隣人 仁城 琳 @2jyourin
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