ネットで漫画を描いている方

白川津 中々

◾️

誰かの支えになりたいだなんて、そんなことこれっぽっちも思ってないのに、自分自身さえ騙してそうなりたいんだって、ずっと思い込んでいた。


漫画を描き始めて十年。ネットで何度か話題になったし、同人での頒布も上手くいっている。個人でやっているサブスクやイラスト依頼で生計が立てられるようになって、絵で食べていけるという意味では確かに成功しているのかもしれない。小さいながらもweb漫画サイトで連載もできている。界隈の規模を考えれば十分上澄みだ。


でも、私の描きたいものは描けていない。


本当は、ARIAのような、シャーリーのような、イエスタデイをうたってのような、そんな漫画を描きたかった。描けないのは私に才能がないから、本気で漫画を好きじゃないから、自分の描きたいものを描いて拒絶されたくないから。ありきたりな、余りにくだらない理由だ。


漫画を描こうと思ったのは単に器用で上手くできるから。それでいい気になって、続けていくうちにそれがお金になっていった。でもそれがかっこ悪く感じた。自分自身に酔って、かっこよく見せたくて、漫画を描く事に必要以上の意義を取ってつけてしまった。そのナルシズムがなければ今頃は商業誌の連載作家にでもなれていたかもしれない。私は結局、ネットでそこそこ有名な絵描き程度で終わるのだろう。


「……就職しようかな」


つい、口から溢れる。

金は稼げる。けれど、普通に働いた方が何倍も楽だ。こだわりもなければ未練もない。私にとって絵は、漫画は、その程度のものでしかない。


誰の支えにもならない依頼をこなし、報酬について考える。私が描いた漫画の価値は、私にとっての漫画の価値は、それだけだ。

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