第7話 シロタマは猫又、そして過去の俺たち

「お酒、飲めるのか?」


『ああ、最近は地ビールってのにハマってるんだ』


「地ビール……。さすがに今、地ビールは用意できないから、他のでも良いか? 酎ハイは?」


『ハマってるのは地ビールだが、酒ならなんでも良いぞ』


 俺は、酎ハイとジュースを冷蔵庫から取り出しお盆に乗せる。それから、俺が見張のために用意していたお菓子は和菓子だったんだけど。それとは別にせんべいも用意した。普通のネコと違って、何でも飲めるし食べられるらしい。

 

 そして用意ができたら、それを持って俺の部屋へ移動した。縁側で話しをしていて、じいちゃんと神谷さんがその声に気づき、来られても困るからな。


 小さめの深皿に酎ハイを注いでやり、お菓子類もお皿に出す。


「これで飲めるか?」


『ああ、大丈夫だ。ゴクゴクッ、プハァッ!! やっぱりこれはだな!』


 そんなシロタマを見て、俺もジュースをゴクゴク飲むと、大きな溜め息を吐いた。


「はぁぁぁ、あ~、やっと気持ちが落ち着いてきた」


『フハハハハッ!! かなりビックリさせっちまったからな。悪い悪い!』


「本当だよ。こう言っちゃなんだけど、俺さ。シロタマにまた会えたら、こんなに嬉しいことはないって、ずっと思ってたんだ。でも、一緒にいたのはもう10年も前だろ? さすがにもう、この世にはいないよなって……」


『……』


「そしたら、シロタマに似たネコは現れるは。あげく本当にシロタマなのか? って確認もできないうちに話しかけられて。驚かないわけがないだろ?」


『ハハハハハッ、だよな!!』


「それで最終的には、ネコじゃなくて猫又だぞ、だもんな。もう、そこまでくると、あんまり驚かなくなってたよ」


『予定では、最後の猫又って事に、1番驚いてもらう予定だったんだ。うん、それは失敗だったな、残念残念な』


「残念って、お前なぁ」


 そう、シロタマは普通のネコじゃなかった。猫又だったんだ。物語や伝承に出てくる、あのあやかしの猫又だ。


 いや、まぁ。多少は驚いたよ、多少はね。でも、それまでの流れが流れだったからさ。最初に言葉を聞いた時ほどには、驚かなかったんだよ。


「本当にあやかしっているんだな」


『ああ、どこにでもたくさん居るぞ。俺みたいに普通の動物に化けたり、他の生き物のふりをしたりして、生活してる者もいるし。もしも変身できなければ、人前に出てこないで、隠れて生きている。そもそもだ、人の前に姿を現すあやかしの方が少ないからな。みんな面倒が起きないように生きてるんだ』


「そうなのか? なら、あやかしが本当にいるって、俺が知っちゃってよかったのか?」


『自分たちが認める人間だったら、問題ないだろう。俺はお前のことをよく知っているからな。お前は俺のことを、ペラペラバラすような奴じゃない。それにお前には、本当の俺をいつか知って欲しいって、昔から思ってたんだよ。……お前と別れる前からな』


「そうか。なら良いけど。……あのさ、俺が引っ越す時、会うことができなかったとはいえ、さよならも言わずに引っ越しちゃって悪かったな。俺さ、俺が引っ越してから、お前がどうしてたか、気になってたんだ」


『ああ、それだけどな。それに関しては俺が悪るかったから、お前は気にしなくて良い』


「どういう事だ?」


『俺は猫又だろう? お前たち人間と違って、かなり長い時を生きてきている。それこそもう何歳か分からんくらいにな。それでまぁ、いろいろあって、途中からは人と関わらない生活をするようになってたんだ。でもあの時、俺はお前と出会った』


「小さな頃の俺か」


『ああ。まぁ、最初はこう思ったんだぜ? 何だこの、うじうじ、なよなよしていて、しっかりしてないガキは、って』


「あ~、まぁ、はははっ。確かにあの頃は、うじうじ、なよなよしてたな」


『だけどな、お前と関わるうちに、もう人とは深く関わらないって決めてたはずなのに、お前のことが気にいっちまって。で、いつの間にか、俺の秘密をお前になら話してもいいって、そう思うようになってたんだ。お前ならきっと、俺のことを受け入れてくれるって。うまく説明はできないけど、確信みたいなもんがあったんだよ』


「……そんなにまで」


『でもな、お前が引っ越すって聞いた時、どうしようもなく寂しくなって、別れを言うのが嫌で……。それで、ここに来られなくなっちまったんだ。そしてようやくここへ来たのは、お前の引っ越した後だった。どれだけ後悔したか。でも、ちゃんと別れなかったことに、どこかホッとしてる自分もいて、自分でもよく分からなかった』


 まさかそこまで、シロタマが俺の事を思ってくれていたなんて。それにいろいろあったって、人と関わらないようにしていたって。よっぽどの事があったんだろう。それなのに俺のことを気に入ってくれて、自分の秘密を話そうとまでしてくれたんだぞ。


「そんなに俺のことを気に入ってくれて、信じてくれてありがとな。でもお互い同じ気持ちだったなんて」


『同じ?』


「ああ。実は俺も、あの頃は気づいてなかったけど、今なら分かる。さよならしなきゃいけないって分かってたのに、本当はしたくて。だから、ちゃんと別れなかったことで、寂しさよりも少しだけ安心してたんだ。さよならじゃないって思えたから。でも、言わなかったことに後悔もしててさ。……まったく、何やってんだろうな、俺たち」


『ハハハッ、本当だな!』


「あの時、お互いにもっと素直になれてたらなぁ。別れるまで、もっと楽しく過ごせたかもしれないし、その後も遊びに来させてもらって、もっと仲良くなれてたかもしれないな」


『そうだな、まったくもったいないことをした』


 この後も、久しぶりに再会し、お互いの気持ちを知った俺たちの話しは、途切れることなく続いた。

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