四十一話 「交代と進化 ― 雪風の冬」
1943年12月3日、第16駆逐隊の雪風と天津風、軽空母千歳は、新設された海上護衛総司令部(11月15日設立)の指揮下に編入された。11月15日から12月14日まで、雪風、千歳、天津風は靖国丸、伊良湖の輸送船2隻を護衛して、日本とトラック泊地を往復する任務に就く。
12月5日、トラック島付近で雪風は米潜水艦1隻を撃沈したと記録された。この航海中、雪風はその俊敏な操艦と爆雷投射で、複数回に渡って敵潜水艦を威嚇し、輸送船団を無事に守り抜いた。
12月7日、トラック泊地にて第16駆逐隊の司令駆逐艦が天津風から雪風へ変更される。12月14日、横須賀に到着し、伊豆涼介ら乗員には束の間の上陸許可が与えられた。
――
「おかえり、涼介さん……!」
横浜の伊豆の実家に戻った伊豆は、家族に迎えられ、婚約者の佳子と再会した。戦地から帰還したとはいえ、次の出撃がいつになるか分からぬ状況の中で、わずかな時間でも彼女と過ごせることは、彼にとって何よりの慰めだった。
「今度こそ、生きて帰ってきて……」
佳子の手を握る伊豆は、黙ってうなずく。雪風の『幸運』は、いずれ尽きる。そんな声を聞いたこともあった。しかし、艦の名誉と仲間を守るため、彼は再び海へ戻る覚悟を新たにするのだった。
――
12月17日、司令駆逐艦の任は再び天津風に戻り、雪風は呉に帰港する。その頃、艦内では大きな変化があった。艦長の菅間良吉中佐が任を解かれ、後任に寺内正道少佐が着任したのだ。
「艦長が交代するのか……」 「寺内少佐か、艦隊勤務経験も長いらしいな」
士官たちの間でも、菅間中佐の冷静沈着な判断力を惜しむ声が多かった。だが寺内少佐の指揮ぶりにも期待が寄せられた。
同時期、第16駆逐隊司令も島居信夫大佐から吉川文二大佐に交代し、雪風は新たな体制での航海に備えることになる。
艦では三度目の大規模改装が施された。後部主砲塔(2番砲塔)は撤去され、九六式二十五粍高角機銃3連装2基が設置されるなど、対空装備が大幅に強化された。単装機銃も増設され、艦はハリネズミのような様相を呈する。
さらに、前部マストには対水上用22号電探、後部マストには対空用13号電探が装備された。
「やっと電探か……だがアメリカのとは雲泥の差だな」 伊豆は甲板上で苦笑する。
「奴らのレーダーはもっと精密で、夜戦でもこちらの位置を正確に掴んでくる。こっちは見えてるつもりでも、向こうはもっと前から照準を定めてるってことか」
「それでも、無いよりマシさ。後は俺たちの腕で補うしかねえ」 砲術士官が言い返す。
伊豆は舵輪に手を添えながら、強化された対空火器と電探の支柱を見上げた。
「時代は変わってきてる。けど、俺たちは雪風だ。どんな嵐だろうが、乗り越えてみせる――」
彼の目には、再び始まる過酷な戦場の夜が映っていた。
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