こと。短編集

こと。

満月に願いを込めて

 オレンジとピンクの空。うっすらと満月が浮かぶ。

 じっと、ベットの小窓から空を見ていると、まるで月が落ちてくるかのような不安が押し寄せてきた。


 レースカーテンを閉めて布団にもぐる。サーモンピンクの薄明かりが私の鼻から上を照らした。


 ああ、もっとちゃんとした人間になれていたらな。


 そう思うのは、私が冷たい人間だからだろうか。

 ノラネコが道端で衰弱していたとしても、私はきっと助けない。


 そういうところを考えるとなんだか悲しくなる。でも、責任を取れない自分は、それで良いのだ。しょうがないのだ。と考えてる自分がまた存在していた。


 ゆらゆらと揺れる光。身体は布団に沈み込み、意識は深い海底にゆっくり降りていった。


 海底から水上の光に照らされおよぐ魚達を眺める。どんな気持ちでおよいでいるのだろうか。


 手を伸ばしても、何も掴むものはない。

 それは絶望だった。


 重い身体。指一本動かすことができない。

 涙など、とうに枯れ果てた。


 私は知っている。この絶望など、一時的なものであると。しかし、それは再び起こることであると。


 海藻が私をくすぐる。

 はっ、と、気づいた私は必死でおよごうとした。


 生きなきゃ……。


 目が覚めると、身体は汗びっしょりで、頬に涙の跡があった。

 なんで泣いていたのかわからない。

 あなたは幸せでしょ?そう言われた気がした。


 本当は思い出したくなかった。


 私は布団をかき分けベッドから起き上がると、しっかり地面に足をつけた。


 さあ、げんじつにあいさつをしよう。

 きっと、そのほうがいい。また笑顔が見れるといいな。


 そんなことを願って。

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こと。短編集 こと。 @sirokikoto

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