トンボ

はへん

トンボ

「セックスしてるときの人って虫みたいだよね」って彼女が言った。



俺はそのとき、「虫は体を動かすのが気持ちいいから動かしているのではないか」という考えがよぎった。

セックスするのが気持ちいいように、体を動かしているのではないか。


子供のとき、なぜだろうか僅かな距離でも走っていた。

5年目の大学生活が始まるまでの春休みは、俺の自意識によって不用意に引き延ばされている。

耐えられず向かったファミリーマートまでの距離、午前2時のバイパスの歩道橋で、俺はどうしても走り出したくなった。

両手をばたばたさせて、すべての風景が見えなくなるように、体ぜんぶで走り出したくなってしまっていた。


手足が動く!

動かすのが面白い!

気持ちいい!


偶然通りがかった彼女は

「トンボじゃん」

と言って笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トンボ はへん @hahehahen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画