第36話 前に進む
(竹宮くん視点)
私立受験も終わり、いよいよ公立に向けてラストスパートをかける時期となった。寒い日が続くけれど、私立組の熱気がすごくて自分たちまで一緒に盛り上がってしまう。
「
そう言われることも多いけど僕だって緊張はする。だけど、ここまで頑張って来たのだからあと少しだ。
そんなある日のことだった。
梅野さんが休み時間に机に伏せて寝ていることが多く、元気がなさそうだった。
3学期になってまた席替えをしたので自分の席からは少し離れている。何か声をかけたいけれどどうしたらいいのだろうか。
あ、そうか。チャットで送ろうか。
でも……直接話したい。
そう思いながら彼女を眺める。
昼休みなら――話せるかも。
「奈々美大丈夫かな、眠そうだよね。喋りに行っても辛そうだから」と菊川さんが言っている。
「わかる、私も時々夜になったらどうしようーって思うから」と女子達。
彼女のために、僕に何かできることってあるのだろうか。
※※※
昼休みになった。相変わらずぼんやりとしている梅野さん。僕は彼女の席に向かう。
「梅野さん……最近、どう?」
「竹宮くん……」
彼女がうつむく。聞き方がまずかったのだろうか。
「緊張してくるよな、いよいよだって思うと」
「うん……」
「夜になったらどうしよう、とか考えたりして」
「あ……そうなの。最近、なかなか眠れなくって……」
やっぱりそうなんだ。梅野さんは真面目だから色々考えてしまうのだろうか。
「僕も眠れない時あるよ。だけど……明日には“どうにかなってる”だろうって考えてる。そうしたら知らない間に朝になってたりして……」
『どうにかなってる』――これは1学期に梅野さんから言われた言葉だ。そう思ったところで完全に不安は取れないけれど、何となく先には進める気がするんだ。
彼女はこの言葉に気づいたようだ。
「竹宮くん……それ……」
「あ、前に梅野さんに“どうにかなってる”って言われて……僕もホッとしたから」
「ありがとう、最近忘れてた。いよいよなんだなって思うとどうしても不安に傾いちゃう。けど……そうだよね。そう考えるしかないもんね」
彼女の顔色がほんの少しだけ晴れたような気がした。ちょっとは元気になってくれただろうか。
「竹宮くんと
梅野さんがそう言って笑顔を見せる。
“一緒に”受験すると言われただけで僕はかなりドキッとしてしまった。
彼女が嬉しそうに見えて、大人っぽくも見えて、よくわからない感情が僕の中に湧き上がってくる。
「うん……一緒に頑張ろう」
※※※
(奈々美視点)
夜に眠れないなんて恥ずかしいことだと思ってたけど、竹宮くんにも同じようなことがあるんだ。
そして彼が「一緒に頑張ろう」って……。
これは前にも言われたのを覚えている――星山岡高校の文化祭に行った時に。最近も“一緒のところ”とか、話していたな。
あの時そう言われて、すごく嬉しかったことを思い出す。
私はいつだって竹宮くんに助けられてるのかもしれない。
放課後、やっぱり眠くてゆっくりと片付けをしていたらまた竹宮くんが来てくれた。優しいな、私のことを気にかけてくれるなんて。
「早く解放されて一日中寝たい気分」と竹宮くんが言うので、思わず笑ってしまった。
「ぐっすり眠りたいな」と私も言う。
その時――
「そこの2人、そろそろ帰る時間だぞ」
竹宮くんが“やっぱり来た”という顔をしたのがちょっと面白くて、お互いクスッと笑い合う。
「あ……松永先生、梅野さんのことがちょっと心配だったので」
竹宮くんが先生に言ってくれた。
松永先生は私のところに来てくれて顔をじっと見てくる。先生には分かるのかな、私のこと。
そう思っていたらはっきりと言われた。
「眠れてないのか?」
「……は……はい。ちょっと……怖くなってしまって」
不思議と先生には夜が怖くなってしまうことも言えてしまう。やっぱり先生に……頼りたいのかな。
「そうか。まぁ目標があるのは大事だが、身体と心を壊してまで追うものじゃない。もう、十分頑張ってるのだから」
「え、先生……」
私はその言葉を聞いて目元がじんわりと熱くなってしまう。また泣いてしまうのだろうか。
松永先生に言われると、どうしていつも勇気づけられるのだろう。他の先生だって優しいのに。
「そうだよ、梅野さんは十分頑張ってるよ」と竹宮くんも言ってくれる。
「ありがとうございます、先生……」
「無理するなよ、竹宮君もな」
「はい」
※※※
そして私は自宅に戻り、机に向かう。
また、松永先生と竹宮くんに助けてもらった。
先生に見守られている安心感は、私をゆっくりと癒していく。
竹宮くんが共感してくれたことで、自分もどうにか乗り越えられる気がする。
そんなことを考えながら勉強していたら、お母さんに呼ばれた。
「奈々美、ココアを買ってきたわ。小さい頃から好きだったでしょう? これで少しは落ち着くかなと思って」
「お母さん……」
お母さんも忙しそうであまり話せていなかったけど、ちょっとだけ眠れないっていうのは伝えていた。だから買ってきてくれたんだ。
「ありがとう、ココア好きだから嬉しい」
「良かったわ。私も飲んでたから」
それから、私はほんの少しずつだけど眠れるようになった。気づけばいつの間にか、また元気に学校に通えるようになり普段の私に戻れていた。
3月――いよいよ公立高校の受験の日が近づいてきた。
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