第33話 自分の気持ち

 翌日、私が登校すると女子達が一斉にこっちを向いて「奈々美ちゃん!」と言いながら来てくれた。久々にクラスのみんなに会えて嬉しい。


「奈々美待ってたよー! もう大丈夫?」

 すみれちゃんもすぐに私のところに駆けつけて来た。

 

「うん、休めたから回復したかな」

「もう倒れちゃダメだよ、受験生は健康が大事!」

「ほんと、そうだよね」


 席についてちらりと斜め後ろを見ると竹宮くんと目が合う。さりげなく微笑んでくれる彼を見ると、昨日のことを思い出してまたくすぐったい気持ちになる。


 私は遅れていた課題をするために10分休みを使ったけれど、前ほど一気に進めることはなくなった。自分のペースも考えながら予定を立てて、先生にも相談しながら進めることにした。


 

 そして放課後、私が課題の残りを教室で解いていたら竹宮くんがノートを見せてくれた。

「梅野さんほど綺麗に書けてないけどさ、参考にはなるかなって……」

「ありがとう……こういうの、助かる」

「……」

「……」

 

 放課後の教室に2人っきり。

 昨日電話でお互い悩んだ話をしていた竹宮くんのこと――彼のことがもっと近くに感じる。


 何も話さなくても、いつの間にか私たちの間には心地良い空気が流れていて、竹宮くんも別のノートを眺めながら勉強していた。



 その時、ドアが開いて――



「お、梅野さんと竹宮くんか」



 松永先生が来てくれた。



 そういえばすみれちゃんが言ってたんだった。私が倒れた時に松永先生が保健室まで運んでくれたこと。


「松永先生、菊川さんから聞きました。保健室まで連れて行ってくださりありがとうございました」

「ああ、構わない。それよりもあまり無理せずにな」

「はい……」


 すると竹宮くんが話し出した。

「先生は、どうやって最終的に志望校を決めるのがいいと思いますか?」

「おっと、迷っているのか?」

「いえ……僕というよりその……」


 竹宮くんが私の方を見たのが先生にはわかったようだ。松永先生は教卓の椅子に座り、こちらを見ながら話してくれた。


「迷うことも増えてくるよな」

「先生、私は……志望校を前から決めていたのに模試の結果で考え込んでしまって」

「模試は気になるからな」

「もう少し頑張ったらその上を目指せるかも、なんて思っちゃったけど……」

「……」

「……倒れてしまいました。情けないです」

 

 松永先生はこういう時、何て言ってくれるのだろう。髪を揺らして先生は「そうだな……」と言っていた。

 

「時間は全員平等に与えられている。だがその中でどれだけ出来るかどうかは……自分次第だ」

「はい……そうですよね」

「あとはどういう気持ち、心構えで受験したいか、だろうか」

「気持ち……?」


 

 自分の気持ち。それは目標に向かって頑張ろうって思える原動力でもある。そう考えると私の場合は――


 

「無理しない“強さ”ってのも、大事だと思う。特に梅野さんの場合は」

「無理しない“強さ”……?」


 

 そうか、私は前から星山岡ほしやまおか高校に行くために勉強していた。その時は無理せずに頑張ることができた。志望理由だって明確だから……美術部に入りたいって思うから受験を乗り切ろうって思えたんだ。


 

 竹宮くんも言う。

「僕も今は随分気持ちが落ち着きました。本番はみんな緊張すると思うけど……どんな気持ちで受験するか、無理しないこと、大事だと思います」

「そうだな」


「先生、ありがとうございます。私、何かわかったような気がします」

「そうか」


 松永先生はそう言って「早めに帰るんだぞ」と言いながら教室から出て行った。

「竹宮くん……先生に聞いてくれてありがとう」

「ううん。僕も気になってたから。松永ってけっこう僕たちの話、聞いてくれるよな」

 

「うん、わかる」

「顔は怖いけど」

「ちょっと竹宮くん……それはそうだけど」

「ハハ……だんだん見慣れてきたよ」



 ※※※



「ただいま」

 私は自宅に帰って来た。そしてお母さんに話がしたくてリビングに行く。


「お帰り、奈々美」

「お母さん、仕事が終わってからでいいんだけど……話できる?」

「もちろん。今日は急ぎがないから、もう少ししてからでも大丈夫よ」

「うん」


 私は部屋で片付けをしてからお母さんのところに行った。パソコンは開いたままだったけど椅子は私の方を向けている。


「お母さん、前に『安心して受験できるのが一番』って言ってくれたよね。それで考えたの。野城川のじょうがわにちょっと憧れたこともあったけど、やっぱり毎日不安だった。不安でずっと勉強しちゃって疲れちゃった」


 お母さんは何も言わずに頷いてくれる。

「あとはやっぱり……星山岡ほしやまおか高校の美術部に入りたい。文化祭だって楽しかったし。星山岡なら今のまま頑張ればいいから、出来るような気がする」


 私がそう言うとお母さんが穏やかな笑顔を見せる。

「そうね。私も奈々美には星山岡が合うと思うわ。そこに行きたいなって思うことが大事だものね」

「お母さん……けど、塾の先生が野城川って言ってて……」

「それは可能性の話よ。行きたい高校があって無理せずに勉強が続けられるなら、私はそれが一番だと思うわ」


「そうだよね。お母さんは野城川の方がいいとか……」

「え? そんなこと思ってたの? 顔に出てたかしら」

「ちょっとだけ」

 

「あら、ごめん。奈々美なら行けそうな気もしたから。だけど……辛かったのね」

「うん……プレッシャーがあって」

「そうだったのね。野城川は確かに良さそうだけど、奈々美の行きたいところが一番よ。確実に行けるところの方が奈々美の気持ちだって楽というか……受験ってそういうところもあるから」


 松永先生も言っていた。どういう気持ちで、どういった心構えで受験をするか。野城川を受験して不安で押しつぶされたら……意味ないもんね。


「ちゃんと奈々美が自分で考えてくれたことが、私は嬉しい。受験まで一緒に乗り越えていこうね」

「うん……!」


 お母さんとも話をして私は心が落ち着いていくのを感じる。

 

 今日は竹宮くんにも、松永先生にも、お母さんにも助けてもらったような気がした。

 

 私はこのまま進めばいいんだって――自信をもらえたんだ。

 


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