第30話 模試とその結果
中学3年生の秋。全国模試は、今の自分の実力と志望校の距離を確かめるための大事な試験。当日、私は緊張しながらも会場の高校に到着した。
2学期になり受験が少しずつ近づいてきているからだろうか。春の模試とは違って教室の雰囲気がピリッとしているような気がする。
席についてノートや単語帳をパラパラと眺めているとポンと誰かに肩を叩かれた。
「おはよう」
この声は……竹宮くん。
ニッと笑って私を見ている彼。
同じ教室だったんだ。すごい偶然かも。
「あ……おはよう」
胸の奥でトクンと音が鳴る。
緊張していたはずなのに、彼がいるというだけで少しずつ落ち着いてきた。
そして彼は私とは離れた席に向かっていく。
試験が開始され、私は各科目、これまでやってきたことを全てぶつけるつもりで問題を解いていった。
みんなが取れる問題は確実に。パッと見てよくわからない問題は後回しに。そして大事なのは問題文をよく読むこと。
※※※
お昼休みにお弁当を食べ終わった後、ノートを眺めていたら竹宮くんが席まで来てくれた。
「あと2科目だな」
「うん、早く終わってほしい」
「ほんと、疲れるよ」
何気ない会話だけど、やっぱり誰か知っている人がいるとホッとする。というか、竹宮くんだからホッとする……。
そして午後からの試験も無事に終了し、みんなが一斉に席から立ち上がって帰っていく。私は疲れていたので他の人が出ていくのを待っていた。
ようやく人が少なくなってゆき、ゆっくりと椅子から立ち上がると竹宮くんがこっちまで来てくれた。
「梅野さん、お疲れ」
「竹宮くん……」
「一緒に帰ろ」
「うん」
私と竹宮くんは少しずつ紅葉していく並木道を一緒に歩いた。もちろん周りには受験生がたくさん歩いているけれど、彼と一緒にこの穏やかな季節を味わっていることが嬉しい。
時折吹く秋の風に髪がふわっと揺れる。2人で同じ歩幅で歩いていることに、ちょっと照れてしまう。
「あのさ、社会でけっこう意地悪な問題なかった?」
「あった! あれはびっくりしたよ」
「適当に書いたけど合ってるのかな」
「え……書けるのがすごいよ竹宮くん。私も書いたけど」
「お、梅野さんもいけるって」
竹宮くんが笑ってる。
私もだんだん楽しくなってきて、うまく笑えるようになっているのかな。
模試の結果はどうかなって思うけど、竹宮くんと一緒なら乗り越えられるような気がする。
※※※
翌日、学校にて。
「奈々美、昼休みさぁ、ちょっと喋りたいんだけど」
「うん、大丈夫だよ」
すみれちゃんに声をかけられた。どうしたんだろう。あれからすみれちゃんも受験に向けて塾で頑張っているって言ってた。わからない所でもあるのかな。
昼休みに中庭の端の方に2人でコソコソと行く。他の女子達には聞かれたくないみたいだ。
すみれちゃんが私の目をじっと見ながら話す。
「ねぇ奈々美……昨日の全国模試で帰り道、竹宮くんと一緒だったよね?」
あ……。
まさか……見られていた?
「……うん。たまたま同じ教室だったから」
「へぇ……」
すみれちゃん、気づいたならどうして話しかけてくれなかったんだろう。
そうか……竹宮くんに告白したから気まずいのかな。
「じっと見てたんだけどさ、竹宮くんってあんな顔するんだ」
「あんな顔?」
「そう、ちょっと緩んだ感じ。親しみがあるっていうか」
「そうなんだ」
めちゃくちゃすみれちゃんに見られているし……!
ということは私の顔も見られてた……?
「奈々美も自然だった……あたしと話す時みたいな感じ。それで話しかけようとしたんだけどさ、何だか雰囲気良かったから……後ろから眺めちゃった」
「えっ……すみれちゃん、ちょっとそれ……恥ずかしいんだけど」
「あたしは、奈々美ならいいと思うから」
「いや、私は……というか受験生だし」
「そういうところ、竹宮くんと似てる気がする。自分のことも、相手のことも、ちゃんと考えてるっていうか」
そうなのかな……?
すみれちゃんからここまで言われると……。
だけど……。
「あはは……まずは受験を頑張りたいし、高校に入ってからもやりたいことあるし……しばらくはそういうのはいいかな……」
「そっか……だよね。ああー! 模試の結果、怖い!」
「本当、緊張する」
私たちが教室に戻っている時だった。
「奈々美ったら……“しばらくそういうのはいいかな”って、竹宮くんと同じこと言ってる」
「え?」
「ふふふー♪」
すみれちゃんが何だか楽しそうに見えた。もう竹宮くんのことは吹っ切れたみたい。良かった。
※※※
そして模試の結果が返却された。
「奈々美……これ……すごいじゃないの。よく頑張ったじゃない」
「うん……」
お母さんに言われて自分もびっくりしている。
第一志望の
「じゃあ塾に行こっか」
「うん」
その日は塾の三者面談があったので模試の結果を持って行って、先生と話をする。
「こんにちは、どうぞおかけください。奈々美さん、模試お疲れ様」
副教室長の先生との三者面談。優しい先生でいつも私のことを気にかけてくれる。
早速模試の結果を見せると先生が驚いていた。
「わぁ、頑張ったね。野城川も可能性が出てきている。学校の1学期の成績もいいですし……私はせっかくなら野城川を目指してみてもいいかなと思ったんですが、奈々美さんはどう?」
「え……それは……私もまだ信じられなくて……」
いきなりレベルを上げて野城川と言われてプレッシャーを感じてしまった。
「ああ、野城川高校もいい学校ですよね。奈々美……まだ時間もあるしちょっと考えてもいいんじゃない?」
お母さんもそう言っている。
「はい……ちょっと考えます」
「星山岡もあるんだし、奈々美さんの行きたいところで大丈夫だからね」
先生はそう言いつつも、私が野城川高校に行ってほしそうな感じを見せる。お母さんも野城川と聞いて表情がぱっと変わったような気がした。
星山岡には美術部に素敵な先輩がいるし、学校の雰囲気も気に入っていた。それに竹宮くんも卓球をやりたいからそこを目指すって言っていた。
あとは彼に「一緒に頑張ろう」って言われたのが、本当に嬉しかったのに……。
野城川という名前が出てから、心のどこかがザワザワする。
さらに上を目指すの……?
私は……。
※※※
11月も中旬に入り、今度は学校の期末試験が近づいてくる。私は塾の先生から“野城川”と言われたことに未だドキドキして、余計に不安になったのか学校の昼休みでも勉強をしていた。
お母さんだって、期待してくれているかもしれない。
そう思いながら、学校でも塾でも自宅でも頑張っていた。
「奈々美、あまり無理しちゃだめよ。野城川もいいかもしれないけど私は……」
「大丈夫だよ、お母さん。やるだけやってみる」
お母さんに心配かけるわけにはいかない。今日も仕事、忙しそうだったし。最近お母さんは、また机で寝ていることが多いから私が起こしている。
そんなある日のことだった。
昼休みに理科室に移動しようと廊下を歩いていたら、目の前がぼやけてきた。
あれ……? うまく歩けない……?
理科室まで……こんなに遠かった……?
気づけば地面が見えてきて――その時、誰かが駆け寄ってくる気配がした。
「奈々美っ……!?」
すみれちゃんの声が、遠くで揺れて聞こえた。
一気に身体中の力が抜けていく。
私は……どうなっているの……?
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