第13話 三者面談

 今日は学校の三者面談だ。中3なのですでに志望校の調査票は提出しているけれど、私は面談と聞くだけで毎回緊張する。

 中1の時はあまりにも話せなくて……今思えば学校生活に慣れましたか、勉強で困っていることがないですか、と聞かれるだけなんだけど……先生やお母さんに助けてもらっていたなぁ。


 担任の先生は優しいのに(お母さんはたまに怖い時があるけれど、基本優しい)、大人に囲まれるだけで目に見えない“圧”を感じる。小学生の時からそうだった。授業参観で大人がずらりと並んでいると、めちゃくちゃ見られている気がして集中できない時もあった。


 一応、志望校も決まっているし大丈夫……なはず。


 

 ※※※



「こんにちは、暑い中ありがとうございます。どうぞおかけください」


 担任の藤井先生に呼ばれて、お母さんと私が教室に入る。

「奈々美さんは志望校が星山岡ほしやまおかと、もう一つは……この高校も書いていただいてますね。私立は併願ですね」


 先生と確認しながらお母さんと私がじっと待っている。お母さんもこういう所では緊張してそうだ。


「奈々美さんは普段の課題も丁寧ですし、この前のワックスがけも自ら進んで実施してくれました。今の志望校でおそらくは……おそらくは大丈夫そうですね。あとはこのままで無理せずにね」


「先生、ありがとうございます。家でも私が一人だから奈々美には朝起こしてもらってたりして、ちょっと情けないんですが……そうそうこの前も実家の荷物を運ぶの手伝ってくれて……気をつけます。無理させないよう本当に気をつけます!」


「まぁそうなんですね。あ、お母さんも無理は禁物ですよ。本当に毎年暑いですよね」

「はい、暑すぎていつものポケトル持っていくの忘れて、思わず目の前にあった薬局で『冷たい水をください』とか言ってしまってもう……恥ずかしいんですよ」


 始まった、お母さんの話の脱線。それ、家でも聞いたし。暑すぎてポケトル忘れるって意味わからないし。だけど女性同士、藤井先生と仲良さそうに喋っているのを見ると少し落ち着いてきた。星山岡高校もこのまま目指して大丈夫そう。


「あ……失礼しました。私としたことが……奈々美、何かある……?」

「え? えーと……」


 

 その時だった。

 ドアが開いて――


 

 大きな姿にあの低くて渋い声がした。

 

 

「失礼します、藤井先生。これを」

「あ、はい」


 松永先生が何か用紙を持って来てくれて藤井先生に渡しただけなのに……私は一気に緊張してくる。

 

 そして何故か藤井先生の隣の席に座った。


 

 ???


 

 あの……四者面談?

 お母さんの前に藤井先生、私の前に……松永先生。


 目の前にいる松永先生、大きすぎて足が机からはみ出ているのだけど。何でいるの? 私、何かしたっけ?


「副担任の松永です」

「あ……お、お世話になっております」

 お母さんもびっくりだ。さっきまで話が脱線していたのが急に本題へと変わった。


「ああそうだ。奈々美さん、何か困っていることある?」

 藤井先生に話しかけられる。


「と……特には……だけど、最近ちょっと疲れてしまうことが多くて」

「奈々美さん。この時期にこう言うのも、とは思うけど……もう少し肩の力を抜いても大丈夫だからね。提出課題も特に社会がよくできていて……ですよね松永先生」

 

「うん、ノートまとめがクラスで一番綺麗にできている」


 松永先生がそう言って少し笑ってくれた。

 え。どうしよう、顔が熱くなってきちゃった。

 お母さんに変に思われてないかな……?


「奈々美は小さい頃から絵を描くのが好きだもんね。ノートも丁寧そう。ありがとうございます」

 お母さんが松永先生にそう言っていた。もう話が変に飛躍することもなさそうだ。良かった。


 それに「最近ちょっと疲れている」ってちゃんと言えた。

 松永先生に言いたかったのかも……何となく。


 

「ありがとうございました」

 無事に三者面談、というか四者面談が終わって私は下駄箱に行く。松永先生に褒められたのが何だかくすぐったくて、顔が赤いかも……しれない。

 

 するとそこに、竹宮くんと彼のお母さんがいた。


 

「あ……」

「おっ……」


 

 竹宮くんと目が合う――だけどすぐに彼は目をそらした。

 懇談が不安なのだろうか、それとも親といるからだろうか。

 いつもよりも竹宮くんは表情が固くて苦しそうだった。大丈夫だよ竹宮くん、頑張って。そう心の中だけで応援している私。


 

「あら竹宮くん! こんにちは」

「こんにちは」


 

 え? お母さん何か喋ろうとしている?

 竹宮くんこれから面談なのに。


「ちょっとお母さん……何やってるの早く行こうよ」

 恥ずかしくなってきて、思わずお母さんに声をかける。

 

「え? 待って待って奈々美ぃー!」



 ※※※

 

 

「副担任の松永先生、褒めてくれたわね。良かったじゃない」

 帰りにお母さんが私に話す。というか今の時間って一番暑い。早く終わるのはいいけれど、この時間は暑い。


「あ……うん」

 いつもお母さんの前ではたくさん話せるのに松永先生のこととなると、何も話せなくなっちゃう。暑さのせいということで……誤魔化せるだろうか。


「奈々美はよく頑張っていると思うわ。あとは目の前のことをいつも通りにやればどうにかなるわよ」


 お母さんに「どうにかなる」と言われて“また”安心した。あれ? “また”って……ええとさっきは……。


 

 松永先生が来て安心したのかな。

 お母さんの話も脱線しないし。

 自分で今の疲れている状況、ちゃんと話せたし。

 あとは社会のノート、褒めてもらったし。

「ノートまとめがクラスで一番綺麗」だって……嬉しい。


 やっぱりいい先生だな、松永先生って。


 

「奈々美? 顔赤くない? ちょっとお茶飲んだら? 熱中症怖いし。私も水飲むわ。今日はポケトルじゃなくて普通の水筒よ♪ 暑いー!」

「あ、うんお茶飲む」


 お母さんがドヤ顔で水筒持ってきたアピールをしていたのが、おかしくて笑ってしまった。

 顔が赤いのは……暑さのせいにしていいのかな。


 松永先生のあの声がずっと頭の中に残ってる。

 疲れているから無理せずに、とは思うけど……覚えやすい方法でノートを書いていけばいいよね。

 

 あ、でも……。

 もっと松永先生に褒めてもらいたくて、さらに色々書いてしまいそう。

 いやいや、無理はせずに……。

 そうそう、他の科目もあるからね。



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