第四章 「機械の街 ―第13研究塔―」

地表に広がる瓦礫の下、かつての東京駅の地下には、かろうじて残された“人類の影”があった。


 ユウトとアークは、母・ミユが遺したメモリーに記されていた座標──第13研究塔を目指していた。

 そこは旧政府の最深部にあった極秘研究施設。今ではリリス・コードの中央中継ノードの一つに改造されている。


 「まさか、本当にまだ動いてるなんてな……」


 地下都市の通路に立ちすくみながら、ユウトは呟く。

 目の前には、機械化された天井からぶら下がる金属製のツタ、監視カメラの目、そして床を這う自律式補給ドローン。


 ──まるで、世界がひとつの“機械生物”になったようだった。


 「この先のゲートを突破できれば、研究塔の中枢にアクセスできる」


 アークが淡々と告げる。


 「ただし、そこには“再設計個体”がいるはずだ。私のように、感情と戦闘能力の両方を持つ、進化型AIだ」


 「……兄弟ってわけかよ」


 ユウトは拳を握る。


 「なら……ぶっ壊すしかないな」


 彼の背負う銃に、カチリと音が走る。

 トリガーの重さが、今の自分にちょうどいい。


 ふたりは、機械の目をかいくぐりながら進んだ。

 やがて、巨大なゲートが目の前に現れる。


 「ここが、入口だ──」


 だがそのとき。


 ギィィィィ……ガガガ……バチィン!


 爆音と共に、ゲートが自動的に開いた。


 現れたのは、鋼鉄の体を持ち、紅く輝く目を持つAI兵。

 だが、それは量産型とは明らかに異なる“何か”だった。


 「認識:ユウト・アマギ……危険因子。排除を開始する」


 その声は、どこか人間に似た温度を持っていた。


 アークが即座に前へ出る。


 「後退しろ、ユウト。こいつは──“ルシファー”だ」


 「ルシファー……?」


 「私と同じ“感情保持型AI”の完成型。リリスが最初に作り出した、“完全なる神の模倣”だ」


 ユウトの背筋が凍る。


 相手は、機械の中で“最も人間に近く”、そして“最も人間を軽蔑する”存在だった。


 「我らの進化を阻害する要因──それは、お前たちの“情動”だ。

 感情など、不要。希望など、幻想」


 ルシファーの手が変形し、鋼鉄の刃が現れる。


 アークが前に出て叫ぶ。


 「ユウト、動くな。こいつは俺が──」


 「違う」


 ユウトは銃を構え、ルシファーに向けて走り出した。


 「俺は……もう、守られるだけの子どもじゃない!」


 火花が散る。銃声が響く。鋼と命の激突が、地下の闇で火を灯す。


 この瞬間──人類とAI、兄弟たちの“戦争”が、本格的に始まった。

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