ステージの上の君に、恋をした
わたふね
短編
眩しいライトの下、まるで星みたいに輝いていた。
ステージの真ん中に立つ彼女は、笑顔で手を振りながら、まっすぐ前を向いて歌っていた。
その瞬間、観客の歓声も、照明の明滅も、時間の流れさえも、全部ぼやけて消えていった。
俺の目には、彼女しか映っていなかった。
「……ああ、なんだこれ」
◇
桐島悠真。大学二年生。
どこにでもいるような、ちょっと地味めな男子大学生。
毎日サークルとバイトを行ったり来たり。
その合間に、レポートと課題を片付けて、寝て、起きて――
そんな繰り返しの中で、まあ、平凡ってやつを地でいってる。
「はー、疲れた……」
サークル帰りの階段をだらだら上がっていると、前から見覚えのある顔が手を振ってきた。
「おー、悠真先輩っすよね? これ、公演の余ったチケットっす」
「え? あ、うん……ありがとう?」
見れば、キラキラのフォントで「アイドルフェス」と書かれたチケット。
「まぁ……行かないのも悪いか」と、なんとなく罪悪感でポケットに入れた。
そして数日後――
「意外と……ちゃんとしてる会場なんだな」
照明が落ち、音楽が鳴り始める。
いくつかのグループが順番に登場して、観客の歓声が響く中、
「次のグループ、Sirius Bloom(シリウス・ブルーム)です!」
──そこに、彼女がいた。
センターに立っていたのは、天羽 ほのか(あまはね ほのか)。
透明感のある声、眩しい笑顔、まっすぐ前を見据える眼差し。
目が離せなかった。
何かに心を撃ち抜かれたみたいで、気づいたら拍手すら忘れてた。
*
「おっ、また来てくれたんだ! ありがと〜!」
ライブ終わりの物販列で、ほのかが手を振ってくれる。
名前を覚えられるほど常連になったのは、いつからだろう。
最初は、ただの興味本位だった。
チケットをもらって、なんとなく足を運んで――
でも、彼女の笑顔にまた会いたくなって、次も行こうって思った。
会場に向かうのが、いつの間にか楽しみになっていて。
週末の予定が「ライブ中心」になっている自分に、ある日ふと気づいた。
そして気づけば、
彼女の投稿を見るのが日課になり、
あの歌声や仕草を思い出すだけで、ちょっと元気が出るようになっていた。
少しずつ、俺の生活には彼女の存在が当たり前になっていった。
けれど、ここ最近は課題に追われて、バイトのシフトも減ってしまい、
気づけば三ヶ月も会いに行けていなかった。
ぽっかり空いた心の隙間に、自分でも戸惑うほどの寂しさが広がっていた。
別に、行かないって決めたわけじゃない。
レポートが立て込んで、財布が本気で泣いてるだけ。
……それだけのはずだった。
最初の頃は「しゃーない」って自分に言い聞かせてたけど、
SNSでライブレポ見るたびに、なんか胸がざわつく。
彼女の写真。彼女の動画。
どんどん人気が出て、ステージも大きくなって、ファンも増えて。
……いいことのはずなのに、なんだ、この感じ。
嬉しいのに、ちょっと苦い。
(ああ、また行けなかったな)って、そのたびに思う。
物販で話してた声も、笑顔も、もうずいぶん直接見てない。
自分でも笑っちゃうくらい、ぽっかり穴が空いた感じ。
これって、何なんだろうな。
ただの"ファン"がこんなふうに寂しくなるの、変かな。
でも――
俺の中では、もうただの「ファン」って言葉じゃ足りないのかもしれない。
三ヶ月ぶりに行ったライブ。
舞台の上の彼女は、前よりもさらに輝いていた。
「……っ!」
目が合った。
一瞬驚いた顔のあと、彼女は微笑んで、それからぷくっと頬を膨らませた。
(怒ってる……?)
でもその仕草すら、胸が苦しいほど可愛くて、帰り道、ずっと頭から離れなかった。
次の日の放課後。
サークル室で片づけをしていると、学弟の山本がやってきた。
「先輩、昨日のライブ行ったんすか?」
「……なんで知ってる」
「SNSで、"また会えたね〜!"って、例の子が書いてましたよ。アイコン、先輩に手振ってる写真じゃないすか?」
「えっ……マジか……」
俺の耳が一気に熱くなる。
山本がにやにやしながら近づいてくる。
「いや〜、これはもう確定でしょ」
「な、何がだよ」
「恋ですよ、恋。先輩、めちゃくちゃ顔に出てるし」
「……べ、別に……」
「だって最近、ライブ行けなかった時、ずっと機嫌悪そうだったし。"レポだけじゃ足りない"とか、ぼそって言ってたし」
「……聞こえてたのか」
「それに、昨日の帰りとか、ニヤニヤしてスマホ見てましたよね」
「ちょ、やめろよ……!」
「ほら、今も顔赤いし〜」
「……っうるさい……」
静かになった部屋の中、片づけの手が止まったまま。
でも、否定できなかった。
……ずっと考えてる。
笑ってた顔、拗ねたみたいな顔、あの一瞬の目線。
今でも、まぶたの裏に残ってる。
「……ねえ山本、"好き"って、どういう感情なんだろうな」
「え、いきなりどうしたんすか」
「いや、……なんか、頭から離れなくて。見るだけで、胸がドキドキして……」
「それ、もう答え出てますよ先輩」
「……え?」
「"これが恋だ"って、気づいちゃったって顔してますもん」
俺は言葉を失った。
でも――確かに、そうかもしれない。
名前も知らなかったあの日の彼女。
今は、俺の毎日の中で、何度も思い出す人になってる。
(……これが、恋だと気づいた)
✦あとがき✦
推し×ファンは、私の中の永遠のロマン。
だからこそ、この物語を書きました。
たとえガチ恋が叶わなくても――
その人を想って頑張れる時間は、きっとそれだけで幸せだったんだと思います。
推しとファンの関係性をテーマにした素敵な楽曲もたくさんあります。
こちらにまとめて載せておきますね。
推しxファンのおすすめ曲(プレイリスト)
✦アイドル+オタク
超最強 /超ときめき♡宣伝部
https://youtu.be/Yeahpo-0Ub4?si=LHbt2zcfp4Thw3AE
超健全(?)なアイドル+オタクの関係
アイドルライフスターターパック /iLiFE!
https://youtu.be/znX2lhAiuxM?si=EHdgKEkvnOgc9z2S
ヒロインズ /=LOVE (イコールラブ)
https://youtu.be/B2teLF9l4aI?si=MwSbfp19FHpwVRFI
推し♡好き♡しんどい /CANDY TUNE
https://youtu.be/q7qZcz1fLng?si=kkXEbCiEmlSEtxCb
✦アイドルxオタク(ガチ恋)
絶対アイドル辞めないで /=LOVE (イコールラブ)
https://youtu.be/17NBPoc78oM?si=r8YZC1DRIivEYAPb
だからとて /=LOVE (イコールラブ)
https://youtu.be/zKkx-rtOIPo?si=fUf1jwvY8WGWdDVc
同担☆拒否 feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)/HoneyWorks
https://youtu.be/FbTtjs6OZ20?si=M57-qjVei2hHKBbd
✦配信者xファン(ガチ恋)
Empty//Princess. /小倉 唯
https://youtu.be/2UM2Ck7zyDI?si=21UsEZaVainzYgnj
配信者とファンの絶妙な距離感を描いた曲
今回も見てくれてありがとうございました。
ステージの上の君に、恋をした わたふね @watafune
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