ステージの上の君に、恋をした

わたふね

短編

眩しいライトの下、まるで星みたいに輝いていた。

ステージの真ん中に立つ彼女は、笑顔で手を振りながら、まっすぐ前を向いて歌っていた。


その瞬間、観客の歓声も、照明の明滅も、時間の流れさえも、全部ぼやけて消えていった。

俺の目には、彼女しか映っていなかった。


「……ああ、なんだこれ」



桐島悠真。大学二年生。

どこにでもいるような、ちょっと地味めな男子大学生。


毎日サークルとバイトを行ったり来たり。

その合間に、レポートと課題を片付けて、寝て、起きて――

そんな繰り返しの中で、まあ、平凡ってやつを地でいってる。


「はー、疲れた……」

サークル帰りの階段をだらだら上がっていると、前から見覚えのある顔が手を振ってきた。


「おー、悠真先輩っすよね? これ、公演の余ったチケットっす」

「え? あ、うん……ありがとう?」


見れば、キラキラのフォントで「アイドルフェス」と書かれたチケット。

「まぁ……行かないのも悪いか」と、なんとなく罪悪感でポケットに入れた。


そして数日後――


「意外と……ちゃんとしてる会場なんだな」


照明が落ち、音楽が鳴り始める。

いくつかのグループが順番に登場して、観客の歓声が響く中、


「次のグループ、Sirius Bloom(シリウス・ブルーム)です!」


──そこに、彼女がいた。


センターに立っていたのは、天羽 ほのか(あまはね ほのか)。

透明感のある声、眩しい笑顔、まっすぐ前を見据える眼差し。


目が離せなかった。

何かに心を撃ち抜かれたみたいで、気づいたら拍手すら忘れてた。



「おっ、また来てくれたんだ! ありがと〜!」


ライブ終わりの物販列で、ほのかが手を振ってくれる。

名前を覚えられるほど常連になったのは、いつからだろう。


最初は、ただの興味本位だった。

チケットをもらって、なんとなく足を運んで――

でも、彼女の笑顔にまた会いたくなって、次も行こうって思った。


会場に向かうのが、いつの間にか楽しみになっていて。

週末の予定が「ライブ中心」になっている自分に、ある日ふと気づいた。


そして気づけば、

彼女の投稿を見るのが日課になり、

あの歌声や仕草を思い出すだけで、ちょっと元気が出るようになっていた。


少しずつ、俺の生活には彼女の存在が当たり前になっていった。


けれど、ここ最近は課題に追われて、バイトのシフトも減ってしまい、

気づけば三ヶ月も会いに行けていなかった。


ぽっかり空いた心の隙間に、自分でも戸惑うほどの寂しさが広がっていた。


別に、行かないって決めたわけじゃない。

レポートが立て込んで、財布が本気で泣いてるだけ。

……それだけのはずだった。


最初の頃は「しゃーない」って自分に言い聞かせてたけど、

SNSでライブレポ見るたびに、なんか胸がざわつく。


彼女の写真。彼女の動画。

どんどん人気が出て、ステージも大きくなって、ファンも増えて。

……いいことのはずなのに、なんだ、この感じ。


嬉しいのに、ちょっと苦い。

(ああ、また行けなかったな)って、そのたびに思う。


物販で話してた声も、笑顔も、もうずいぶん直接見てない。

自分でも笑っちゃうくらい、ぽっかり穴が空いた感じ。


これって、何なんだろうな。


ただの"ファン"がこんなふうに寂しくなるの、変かな。

でも――

俺の中では、もうただの「ファン」って言葉じゃ足りないのかもしれない。


三ヶ月ぶりに行ったライブ。

舞台の上の彼女は、前よりもさらに輝いていた。


「……っ!」


目が合った。

一瞬驚いた顔のあと、彼女は微笑んで、それからぷくっと頬を膨らませた。


(怒ってる……?)


でもその仕草すら、胸が苦しいほど可愛くて、帰り道、ずっと頭から離れなかった。


次の日の放課後。

サークル室で片づけをしていると、学弟の山本がやってきた。


「先輩、昨日のライブ行ったんすか?」

「……なんで知ってる」

「SNSで、"また会えたね〜!"って、例の子が書いてましたよ。アイコン、先輩に手振ってる写真じゃないすか?」


「えっ……マジか……」

俺の耳が一気に熱くなる。


山本がにやにやしながら近づいてくる。


「いや〜、これはもう確定でしょ」

「な、何がだよ」

「恋ですよ、恋。先輩、めちゃくちゃ顔に出てるし」


「……べ、別に……」

「だって最近、ライブ行けなかった時、ずっと機嫌悪そうだったし。"レポだけじゃ足りない"とか、ぼそって言ってたし」

「……聞こえてたのか」


「それに、昨日の帰りとか、ニヤニヤしてスマホ見てましたよね」

「ちょ、やめろよ……!」

「ほら、今も顔赤いし〜」

「……っうるさい……」


静かになった部屋の中、片づけの手が止まったまま。

でも、否定できなかった。


……ずっと考えてる。

笑ってた顔、拗ねたみたいな顔、あの一瞬の目線。

今でも、まぶたの裏に残ってる。


「……ねえ山本、"好き"って、どういう感情なんだろうな」


「え、いきなりどうしたんすか」

「いや、……なんか、頭から離れなくて。見るだけで、胸がドキドキして……」


「それ、もう答え出てますよ先輩」


「……え?」


「"これが恋だ"って、気づいちゃったって顔してますもん」


俺は言葉を失った。

でも――確かに、そうかもしれない。


名前も知らなかったあの日の彼女。

今は、俺の毎日の中で、何度も思い出す人になってる。


(……これが、恋だと気づいた)



✦あとがき✦


推し×ファンは、私の中の永遠のロマン。

だからこそ、この物語を書きました。


たとえガチ恋が叶わなくても――

その人を想って頑張れる時間は、きっとそれだけで幸せだったんだと思います。


推しとファンの関係性をテーマにした素敵な楽曲もたくさんあります。

こちらにまとめて載せておきますね。


推しxファンのおすすめ曲(プレイリスト)



✦アイドル+オタク


超最強 /超ときめき♡宣伝部

https://youtu.be/Yeahpo-0Ub4?si=LHbt2zcfp4Thw3AE

超健全(?)なアイドル+オタクの関係


アイドルライフスターターパック /iLiFE!

https://youtu.be/znX2lhAiuxM?si=EHdgKEkvnOgc9z2S


ヒロインズ /=LOVE (イコールラブ)

https://youtu.be/B2teLF9l4aI?si=MwSbfp19FHpwVRFI


推し♡好き♡しんどい /CANDY TUNE

https://youtu.be/q7qZcz1fLng?si=kkXEbCiEmlSEtxCb




✦アイドルxオタク(ガチ恋)


絶対アイドル辞めないで /=LOVE (イコールラブ)

https://youtu.be/17NBPoc78oM?si=r8YZC1DRIivEYAPb


だからとて /=LOVE (イコールラブ)

https://youtu.be/zKkx-rtOIPo?si=fUf1jwvY8WGWdDVc


同担☆拒否 feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)/HoneyWorks

https://youtu.be/FbTtjs6OZ20?si=M57-qjVei2hHKBbd




✦配信者xファン(ガチ恋)


Empty//Princess. /小倉 唯

https://youtu.be/2UM2Ck7zyDI?si=21UsEZaVainzYgnj

配信者とファンの絶妙な距離感を描いた曲


今回も見てくれてありがとうございました。

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ステージの上の君に、恋をした わたふね @watafune

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