第2話「月の巫女が降りてきた」

『風と月と炎、三人それえば最強です!な訳ないでしょ!違かった?!』


第2話「月の巫女が降りてきた」


 昼間なのに、空に月が出ていた。

 それだけで、今日はちょっと変だなって思った。


 宵月ウサギは、校舎の屋上で制服の袖をたくし上げ、指先に小さな火を灯して遊んでいた。火はウサギの魔法だ。熱くないけれど、きちんと燃えている。


「ねえ、シエル。昨日さ、夢見なかった?」


 風に長い髪をなびかせながら、緑十字シエルは鉄柵に背を預けていた。


「……白い着物の女の子が、空から降りてきた夢?」


「見たんだ! あたしも!」


 ウサギが跳ねるように声を上げる。


「月の下で、くるくる回ってさ。なんか、すごく……綺麗だった」


 そのとき、風がぴたりと止んだ。

 あまりにも突然すぎて、ウサギは思わず火を消してしまった。


「……え?」


 空がざわめく。

 雲一つなかった空に、銀の光が差し込んだ。昼の空にありえないほど強く輝く、月の光。


 風が渦を巻く。シエルが目を細めた。


「来る……」


 光の柱が、屋上の中心に降り注ぐ。

 そこに、ふわりと影が現れた。巫女装束のような白い服、髪には月の飾り。瞳の奥に、夜を飼っているような少女。


「……やっぱり、ここだったんだ」


 その子は、小さくそう言って、二人を見た。


「紫月カンナ……?」


 シエルがつぶやく。


 その名を聞いたウサギは、ハッとして振り向く。


「えっ、知り合い?」


「いや……でも、どこかで……ずっと、前に……」


 カンナはゆっくりと歩き出す。まるで月そのものが動いているかのように、静かで優雅な歩み。


「風と炎。ようやく、そろったんだね」


 声は穏やかだけど、どこか底が見えない。


「……なにが?」


 ウサギが眉をひそめる。


 カンナはにこりと微笑んだ。


「まだ思い出してないのか。契約のことも、過去のことも……」


 シエルの目が鋭くなる。


「あなた、何を知ってるの」


 その問いに、カンナは答えなかった。ただ、そっと目を閉じて言う。


「もうすぐ、世界は“あのとき”に戻るよ」


 風がまた吹き出す。

 月の光がスッと消えたとき、カンナの姿も消えていた。


 ウサギとシエルだけが、取り残された。


「……いまのって、夢じゃないよね?」


 ウサギの問いに、シエルはただ、静かに首を横に振った。


 空にはまだ、月が出ていた。

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