君の声が私の生きる意味になった

@mame551

第1話

その声は、生きていていいって言った


 工場のタイムカードを押したあと、私は誰とも目を合わさずにロッカーへ向かった。

 24歳。製造業勤務。日々は、油と音と数字で埋め尽くされていく。


 いつからか、昼休みもひとりで過ごすようになった。

 話しかけられるのが苦手だったし、誰かに合わせると疲れてしまう。

 “ちょっと変わってる”って言われるのにも、もう慣れた。


 でも本当は、誰かとちゃんと笑って話したいって思っていた。



 帰り道、スマホに通知が光った。

 「七瀬さんが配信を始めました」


 いつものように、イヤホンを耳に差し込む。

 少しだけ速まる心拍を、私は押さえながら歩き出した。



 「今日も、お疲れさま」

 彼の声が、いつものように静かに始まった。

 甘くも低くもない。でも、息を吐くようなその声に、私はいつも救われる。


 “生きていていいって、言われた気がした。”


 その声だけが、私の夜を優しくしてくれる。


「今日も配信来てくれてありがとう」


「みんな何してた?」


1人1人に聞いている。


私のコメントは読んでくれるか


いつも、不安になりながら「仕事してました」


と打つ


七瀬は「秀美ちゃん仕事してたんだね。今日もお疲れ様」


秀美だけが特別ではない。


けど七瀬に言われていつも特別な気がした。


七瀬は「俺も仕事してたよー!毎日甘い香りに包まれてるよー」


みんなが【何の仕事?】と打つけど七瀬は「秘密だよ」と答える。


みんなの推測が始まる


「今日は何話そうか?」


七瀬はすぐ話題を変えた


Vライバーは素性を明かさないことそれがルールらしい


七瀬はひと通り話終えると「みんな明日も待ってるからね!」「じゃあまた明日も頑張ろー」


そう言って配信を切る


秀美は「またね」と打ち静かに消す


七瀬がいるから秀美は毎日が生きれる


配信が終わると、部屋の中が急にしん…と静まり返る。

 スマホを置いたまま、私はベッドに横たわった。


 眠る前、あの声を思い出す。

 「今日も、お疲れさま」――まるで、自分だけに言ってくれたような気がして。



 けれど、画面の向こうにいる彼と、私はきっと一生、すれ違ったままなんだろう。


 そう思うと、目頭が熱くなった。

 でも、それでも、私はまた明日も彼の配信を見る。


 だってその声が、私に「生きてていい」って言ってくれるから。


七瀬と出会ったのは去年の秋だった


その日秀美は仕事でミスをして落ち込んでいた。

そんな時携帯が光った


通知を見ると広告だった


【1人で寂しくしていませんか?あなたを待ってる人がいます。】配信アプリだった


いつもならきっとスルーしてたけど今日はその言葉が気になって押してしまった、、、


七瀬配信中


秀美は気になり押す


「こんばんは」「お疲れ様」


男性の声がした。


その男性は「初めまして、配信者の七瀬です」

「僕と一緒にお話ししましょう」


秀美は久しぶりの誰かからの「お疲れ様」を聞いて泣いてしまった。


親元を離れてずいぶん経つ


帰ってもただいまを言う相手もいない


そんな孤独で押し潰されそうな部屋が七瀬の声によって少しの間明るく感じた。


七瀬は話を続ける「何かコメントくださいね」


秀美は泣いた目をこすり何を打つか考える


誰にも言えない弱音を吐いてみようかな、、、


「今日仕事でミスしちゃいました」


どんな反応が返ってくるか怖かったが送信を押した


すると七瀬は「ミスありますよね、僕も毎日ミスしては落ち込んでました」


「でも、ミスしたら美味しい物食べて忘れることにしてます」


「過去には戻れないしミスを繰り返さないが大切反省したなら美味しい物食べて忘れましょう」


「名前教えてもらっていーですか?」


秀美は「秀美です」「七瀬さんの言う通り美味しい物食べます」「ありがとうございます」


と丁寧にお礼を伝えた。


七瀬は「秀美さんありがとう」「名前覚えたのでいつでも待ってるよ」


「元気ない時でも元気な時でもいつでも待ってるからね」


秀美は嬉しくて「はい」と送信した


この日から秀美は七瀬の配信を観るようになった


これから先秀美を変えることになるとはこの時は

少しも思っていなかった


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