第5話 今、ここにいる理由

雨音が静かに現実へと引き戻す。

マモルは今も変わらず、私の手をしっかりと握っている。

その瞳には、温かなぬくもりが灯っていた。


さっきのあの子は、数歩進んで振り返った。

群衆を不安げに見つめながら、まるで自分の居場所を確かめるかのように。


私はそっと顔を傾け、囁くように言った。


「……あの子は、私だったんだ。」


マモルは何も言わず、ただそっと手を強く握り返した。


曇り空を見上げて、ふっと小さく微笑む。


「ありがとう。あの時、あの店から一歩踏み出せてよかった。」


心の奥で静かに呟く。

もしあの本に出会っていなかったら、

もしあの声に気づかなかったら、

もしあの優しい視線がなかったら、

きっと今の私は、ここに立ってはいなかった。


コスプレも、自分らしく生きる夢も、

見ようとすらしなかっただろう。


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扉のうしろで君を見つけた レイナイ @reinai_no_ame

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