第2話 初デート

アプリを開くと、一件だけ返信が来ていた。


> 「今日、夜なら空いてます」




胸が高鳴る。

プロフィール写真は顔の一部が隠れていたけれど、かわいい雰囲気が伝わる子だった。

こんな田舎で、こんな子に出会うチャンスなんて二度とないかもしれない。


衝動的に、すぐ食事に誘った。

まさか今夜だとは思っていなかったけれど、断る理由もない。


> 「ほんとですか!嬉しいです!車ですよね?駅で待ち合わせで大丈夫ですか?」




すぐに返信を打つ。

そわそわする。

これが初デートになるのかもしれない。



---


> 「大丈夫です!」

「待ち合わせ、19時くらいで大丈夫ですか?」




場所や時間を提案するたびに、焦ってると思われないかとビクビクする。

だけど、チャンスを逃したくない気持ちの方が勝った。



---


待ち合わせ場所には、約束の10分前に着いた。

心臓がバクバクする。


> 「白のニットにジーンズです」




相手から服装の連絡が届く。

あたりを見回すと、目が合った。


一目でわかった。

小柄で、メイクのしっかりしたギャルっぽい印象の子だった。

鼻が高く、目がぱっちりしていて、吸い込まれそうになる。



---


「あ、は、はじめまして。えっと、レストラン、3階ですね」


自分でもぎこちない声が出る。

「はい、はじめまして」


駅のモール内はがやがやしていて、声が聞き取りづらい。

3階に着くと、少し静かなエリアに出た。



---


「えーっと、何があるかな」

レストラン街の案内板を一緒にのぞき込む。


「和食と洋食、どっちがいいとかあります?」


「うーん……ちょっと話したいから、静かなところがいいな」


「じゃあ、ちょっと見て回りましょうか」



---


3階のレストラン街を一周して、空いている和食のお店に決めた。

どうやら海鮮のお茶漬けが有名らしい。


メニューをパラパラ見て、二人ともすぐに「タイ茶漬け」に決まる。

好みが似ているのかもしれないと、なんだかうれしかった。



---


「こういうアプリで会うの、初めてで……」


私が口を開く。


「あっ、私もです。最近、彼氏と別れたばかりで……」


彼女は口が小さくて、食べている仕草がすごく可愛かった。

うん、わかる、とか、へえ、とか相づちを打ちつつ、結局自分ばかり話してしまった気がする。



---


食事を終えるころ、彼女が言った。

「まだ時間、大丈夫?」


お店は21時閉店らしい。

もう2時間も話していたなんて思わなかった。



---


「えーっと、1階にスタバがあります」

「じゃあ、そこ行きましょうか」


1階のスタバで、さらに1時間ほどおしゃべりする。

さすがに話しすぎたと感じて、

「○○さんの話ももっと聞きたいです!」

と意識して聞き役に回った。



---


「えーっと、見てほしい写真があって……」


彼女がスマホを差し出してくる。

距離が近くて、ドキッとした。


画面に映っているのは……サル?


「えーっと……これ、サル?」

「これ、マンドリルっていうんです!自然界にありえない色で、すごくないですか?」


あまりに予想外で、思わず笑ってしまう。

同時に、なんだか愛しい気持ちになる。



---


「動物、好きなんですか?」

「うん!マンドリルと、あとゴリラとラッコも大好き!」


「ゴリラとラッコって、意外な組み合わせですね」


「ねえ、ゴリラの握力っていくつあるか知ってます?クイズにします!」


「えっ、わかんない。100キロくらい?」


「それが……1トンなんですよ!すごくないですか!」


間の取り方と熱量が面白くて、笑ってしまった。

そのあとも延々とラッコの豆知識が続き、気づけば私もラッコ博士になりそうだった。



---


そろそろ帰る時間が近づいた。

バス移動の私は、23:20の最終に間に合うようにスタバを出る。


「え、送りますよ!私車なんで、大人ですから!」


そうだった、彼女は社会人で、私より5つ年上だ。

話しているとあまり年の差を感じなかったのは、彼女なりの気遣いかもしれない。



---


彼女の軽自動車に乗る。

助手席がすごく近く感じて、ドキドキした。

ほんのり甘い香水の匂いが車内に漂っている。


家の近くまでナビしながら、最後はおにぎりの話で盛り上がった。

「ローソンの鮭が一番美味しいんだよ」と彼女が熱弁するから、

「コンビニのおにぎりなんてどこも一緒じゃない?」

とわざと茶化した。



---


マンション前の共有パーキングに停車する。


「じゃあ今度は、いくらおにぎりの食べ比べしようね!」


無邪気に笑う顔に、どんどん惹かれていく自分がいた。

彼女のギャルっぽい見た目とは裏腹の、甘い声やちょっとおどおどした仕草に、もう夢中だった。



---


「うん。またね」


車のドアを閉める。

部屋に戻ると、すぐにメッセージを送った。


> 「今日は楽しかったです」




すぐ返信が届く。


> 「うん、ありがとう。すごく楽しかったよ」




そのまま夢見心地でスマホを握りしめて、眠ってしまった

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