異世界でフィギュアスケートを流行らせてみた
@159roman
第1話
私が転生していることに気づいたのは7歳の時でした。
冬の寒い日、お庭にある広い池が凍っているのを見て
「なぜ誰も滑らないのだろう?」
とふと疑問に思った瞬間に前世の記憶が怒涛の如く押し寄せて昏倒。
知恵熱のような症状で3日ほど寝込んだ。
その間に、現世と前世の知識と記憶が融合して今の私の自己意識がはっきりとしたのでした。
ワンド王国の北の辺境を領地に持つホプキンズ伯爵家の三女キャロルとしての私の人生は、熱が冷めて起き上がれるようになった時から始まったような気がします。
なにせそれまでの7年間の記憶よりも前世の日本人だったころの記憶量の方が多くて、生まれてから7歳までの記憶がおぼろげになってしまったのです。
大人になると小さなころのことを覚えていない、みたいな感覚でしょうか。
頑張って子供に擬態してみたものの、急に大人びた娘に両親や兄姉も戸惑ったことでしょう。めんご!
さて、我が家の領地は国の北方にあって冬は長くて厳しい。
雪と氷に閉ざされてしまう過酷な環境です。
ワンド王国の国民は大抵の人が魔法を使える。
貴族は平民よりも魔力が多め。王族は別格だとか。
で、転生前の記憶が強くても体は貴族令嬢の私は魔力多め。
せっかく使えるのだから頑張ったよね、魔法の練習。
雪と氷に閉ざされた冬の間は幼い子供はあまり外には出られないのだし、魔力鍛錬に魔法の練習を時に上手く出来ず壁にぶち当たりながらも楽しく頑張った。
野望のために。
私の野望。
それは、この世界にフィギュアスケートを流行らせること。
そもそもせっかくの凍った池があるのにスケートで滑るという概念がない。
前世でいうミニスキーのようなものはあるのに、なぜかスケートはないという。
これは私が前世で大人のフィギュアスケート初心者コースに数えるほどだけど通っていた知識から、この世界にもたらすしかないでしょう。そうでしょう。
「やるしかないでしょう」
と野望に燃えて、必要なのは水と氷だと考えた。
幸いにもその2属性に適性があったので重点的に水と氷の魔法を鍛えた。
浅知恵である。
冬が終わり、外出の許可が出たので街にある工房を訪ねる。
辺境にある我が家の領地には獣人や亜人と呼ばれる種族の人達も多く住んでいる。
手先が器用なドワーフ族が営んでいる工房で、スケート靴の相談をするために。
大人は子供のたわごとと相手をしてくれなかった。しょうがないね。
ドワーフの職人の娘さんを紹介されました。
娘さんはポーという私よりも年下に見えるかわいらしい女の子ですが、実際には私よりも年上です。なんなら一番上のお姉様よりも年上でした。
ポーにスケート靴のことを一生懸命に説明し、私のつたない説明から試作品を作ってもらえることになりました。
何度も打ち合わせをしているうちに短い春が過ぎ、夏も終わって秋の初めころに試作品が完成。
複数種類のブレードの試作品をオーダーしていたので時間がかかったのです。
フィギュアスケート用だけではなく、スピードスケートのようにスピード特化のものなど色々と。
ブレードを付けるシューズも重要で、使う皮の固さなどの調整も大変でした。
春と夏は私の魔力では試走するために池を凍らせることができないので、寒くなり始めたこの時期に完成してよかった。
安全を期して庭の池の浅いところを魔法で凍らせる。
お父様と、お父様にお願いして来てもらった騎士団長や騎士様たちにも立ち会ってもらい、いよいよ試走です。
滑れた。
感動です。
前世のようにスイーっと滑れました。
調子に乗ってスピンなんてのも披露してしまいます。
事前に身体強化の魔法をかけていたので出来たことです。
なにせ前世の私は大人のフィギュアスケート初心者コースに数度通っただけの素人ですから。しかも若干運動音痴の。
魔法万歳! 身体強化万歳! で大人のためのフィギュアスケート初心者コースで習った知識を総動員してジャンプにも挑戦。
なんと2回転ができました!
感動!
呼んでないけれど見学に来ていたお母様とお姉様たちも歓声を上げています。妹もピョンピョン跳ねています。
スケート靴を作ってくれたポーも嬉しそう。
「ありがとう!」なんて手を振っていたら転びました。残念。
こうして私はスケートの有用性をまずは目で見せつけ、そしてお父様と騎士団長にプレゼンするのです。
軍備にも使えるよ、と悪魔のささやきを。
ここは北の辺境。
魔物や獣の脅威と隣国からのちょっかい(濁しているけれど軍事的なあれそれですね)があるのです。
ミニスキーのようなものはあれど、斜面じゃなきゃ有用じゃない。
その点スケートなら冬に湖や池、川などが凍れば早く移動できる。氷魔法の属性があるならもっと便利に使える。
「使い方次第では、……わかるよね?」とちょっと悪い笑顔でお父様にささやいてみたら、採用されました。
本格的にスケート靴が生産されることになり、
騎士様たちにも練習をしてもらうので一応発案者で経験者の私がコーチ役を務めることになりました。
皆様もともと体を動かすことにたけているので冬の初めのうちにはもうマスターされる方が続出して、コーチ役はすぐにお役御免となりました。
私がスケートを広めたいとお父様に野望の一環を話しましたところ、領民にも広めてくださり人々の冬の移動手段が少し便利になりました。
子供たちの冬の遊びにも人気です。
私の目論見通り魔物退治や狩り、それに隣国からのなにがしにも役に立ったそうで、たいそう褒められました。
そこから、スケート靴の改良、リンクの氷の質の改善などが始まったのです。
スケート靴はポーと職人さんたちに丸投げですが、氷の質は私のこだわりなので自分で何とかするしかありません。
すべてはフィギュアスケートのために。
フィギュアスケートをする人がたくさん現れて、大勢の人が楽しめるように。
氷の表面を平らにしてツルツルにするために、なにが必要なのか。
前世で誰かの勘違いから有名になった重いコンダラのようなローラーで押し固める?
滑る氷の上でそれは難しいし、そもそもそれで正解なのか?
などと悩んで試行錯誤の日々。
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