飛んで火に入るのは誰か

 旅を初めてから数日、国境のある町に辿り着いた。この国から南東へ行くには、先ず東へ向かう必要がある。ここは東でも、更に最果ての町だった。この町を出ると、しばらくは町がない。あっても集落で、畑を耕しながら身を寄せ合っている人達だろう。ここから先の旅支度を整えられるのは、この町だけである。

 俺は先ず、武器屋を探した。弓と矢を手に入れたかったのもあるが、一番は彼奴の情報が欲しいからだ。国境のある町にいる人々は、皆、様々な国から来ている。おまけに人の往来も激しいため、食料や物資はこの国のものに留まらない。それは、情報も同じことである。

 武器屋以外に情報が入りそうなのは、旅の商団、用心棒組合、酒場だろうか。酒が入ると、人は緩む。時にはタガが外れる。そのタガが外れた状態が俺は嫌いであるため、酒は呑まないのだが、後で一度寄るとしよう。口は何のために閉じることが出来るのか、と問答したくなる程に、ボロボロ言葉が零れてくるからだ。

 通りを歩いていると、武器屋を見付ける前に、旅の商団が集まって市を開いている所に出た。もしかしたら市が活発であるため、武器屋として構えられている店は無いのかもしれない。それぞれ、商団ごと、もしくは商品ごとに天幕を張っている。異国の珍しい物に興味を引かれつつ、全体を眺めると、いくつか剣が並べられている天幕を見付けた。近付いて様子を見ると、剣や短剣以外にも種類があり、都合の良いことに弓も売っていた。

 俺は半弓を一張と、矢が一式納められている矢筒を買った。今は銃の方が主流だぞ、小銃と勧められたが、手入れがかなり必要なようなので断った。俺はそこまで器用ではない。炎の武器について聞いてみると、売られてはいなかったが、新しい情報を聞くことが出来た。どうやら、どの武器も、炎が出るのは最初の一撃だけらしい。剣にしても、初撃を上手く使えなければ、後はただの剣と変わり無い。銃や大砲に関しては、弾の方に炎が込められているらしく、そしてその弾が一発でも角金貨二枚からと高いため、そう簡単には市場に回らないそうだ。角金貨が二枚あれば、慎ましく暮らしたとしても、一年は生活できる。弾丸一発の為に、一年の稼ぎ。大体の人は、買いたくても手が出ないだろうし、買うことすら考えない。


「あれに手を出す奴は、余程の金持ちか、追い詰められている奴か、悪どい奴だよ」


 商人の言葉に、確かにそうなのだろうな、と思った。俺は礼を言ってその場を去り、宿屋を探した。まだ日は高いが、もう少しこの町で準備を整えたい。先に一部屋抑えておけば、夜が楽になる。町を発つのは、早くても明朝になるだろう。

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