龍の嫁入り 〜神様は生贄の私を妻にするそうで〜

ソウタ

第1話 優しすぎる神様

村で私の名前が呼ばれた時私は少し心が軽くなった気がした。


村では天候に恵まれず毎年のように起こる災害。

そんな中これを鎮める方法として、この地には守り神に生贄を捧げる伝統が方法として村で議論されていた。



私は幼い頃、両親が流行病で亡くなり、知り合いの家族に引き取られた。

でも、そこでの生活は地獄のようで、毎日奴隷のように扱われ暴力なんて当たり前、生きてることがただただ虚しい。


毎日食べるものも、寝る場所もまともに与えられず、働き、殴られ私の心と体はとうに限界を迎えていた。

村の他の家の人も私のことを知っているが私に手を差し伸べようとはしない。


ただ、可哀想とはたから見るように呟くことしか私は聞いたことがない。


そんな時、今年も村が山崩れや洪水などに襲われ作物や家などが失われた。

これを村長はこの地の龍神様の怒りを買ったのだと話してついに貢物をすると村全体に呼びかけた。

この地を治める龍神様は加護をもたらしてくれるが貢物や私たちの態度が気に食わないとすぐに災いをもたらすと伝説では言われている。


災害が起こり村では最上級の貢物である生贄を選ぶ会議が行われていた。

生贄には少女が選ばれるという習慣があり、この村には数人の少女がいたがどの親も生贄に出すことを拒絶し親も助ける人もいない私が選ばれることになった。

生贄は皆の話だと龍に丸呑みにされ食い殺されるんだとか。

私はその伝説を聞いて背筋がゾワっとしたが同時に嬉しさも覚えた。




その数日後、私は慣れない着物で村人たちに連れられていた。

その歩いているときに私は泣いていた。

(ああ、やっとこの地獄から抜け出せるんだ)と多分普通の涙悲しさの涙ではないだろう。

私は村人たちに連れられ村の山の中にある鳥居に連れてこられた。

この先の山の中にこの村の守り神が住んでいるらしい。

そこで多くの村人が私を見送った。

でも、その村人たちの表情は悲しげなものではなくどこか嬉ような、厄介払いをするような顔だったことを覚えている。


私は1人、暗い山道を歩いて行った。

初めての純白の綺麗な着物なのに着る目的が神様に殺されるためだと思うと、着る意味なんてないんじゃないかって思ってしまう。

しかし、食べられるということに少し恐怖がある。

でも、その恐怖の中にはすこしほっとした気持ちも混ざっていた。


もう山道を3時間くらい歩いただろうか着物は動きにくく何度も転びそうになった。

辺りを見渡すと、霧もかかってきて周りはさらに暗く鬱蒼と生える木々しか視界には映らない。


しかし、突然霧が深まって私の視界を遮った。

「霧が、、周りが見えない、、」

霧が私を包みあたりは真っ白で、どちらがさっき歩いていた道なのかも忘れてしまった。

少しして、目の前を見るとさっきまではなかった。

石でできた鳥居が現れた。

「なにこれ、、さっきまでなかったのに」

私はその鳥居に驚きながらも自然と鳥居が続いていく方向へ進んでいく。

鳥居をくぐるとそこはさっきまでの山の雰囲気とは違う何かが感じられた。

また少し歩くと、こんな山の奥地なのに一つの神社が現れた。

「こんなところに神社?」

私は恐る恐る足を踏み入れるとその奥に人影が見えた。

「なんだ、また生贄か、、あれだけ必要ないと言ったんだがな」

その声は私より少し年上くらいの男性の声だった。

「あのっ!ここは?」

「ほう、自ら生贄としてここまできたと言うのに、わからないか?ここはお前らの村を守る守り神の住処だよ」

そう言われた時私はあの人が人ではなく神様なのだと悟った。

その男は私に近づいた。

私はその男に腕を掴まれ、まじまじと腕を眺められた。

その視線の先は腕から足までなぞるように眺める。

(食べられる、、)

私はそう覚悟して目をつぶった。

しかし、私の腕から手は離され目の前ではため息が聞こえてきた。

「村の人間は生贄だからって雑に扱ってたんだな、、これでは1人で他の街にも逃せない、、いや逃したところでのたれ死んでしまう」

私がポカンとしていると神様であろうその男は続ける。

「そもそも、あの土地に住めるようにしてやっているのに次から次に要望を出して、人間は欲が深すぎる」


私はその男の方を見た。

目は青く透き通っており宝石のように綺麗だった。

「なんだ?人間、、俺の方を見て」

「いえ、ずっと生贄は食べられると聞いていたので」

そういうと神様はまたため息をついた。

「なぜ人間は自分たちのことを美味だと思っている。人が獣の肉に勝てるわけないだろう」

そう、いってまた私の腕をつかむ。

「ほら、こい。このままでは弱ってお前は死んでしまう」

私は手を引かれ、神社の奥にひっそり建っている小さな家へと連れて行かれた。


その家は人が住んでいるくらいに丁寧な家だった。

私は家の中の囲炉裏の前に座らされて神様は慣れた手つきで何かを作っている。


そう言って数分後、私の目の前には簡単な味噌汁や山菜を煮た料理が出された。


「あの、これは?」

「なんだ、お前のためのものだがいらないのか?」

すこし、怪訝そうな顔の神様が見えたので

私は箸を持ち山菜や味噌汁を食べた。

その味は今まで生きていた中で一番の食事だと感じた。

「おいしい、、」

私の目には自然と涙が浮かんでいた。

「そんな、泣くほどのものでもないだろ」

泣いている私を見て少し驚いている様子の神様だったが、どこか、表情が柔らかい。


私が感動しながら食事を終えると、すぐ後ろには寝るための寝具が引かれていた。

「あの?、、、」

「俺は蒼と呼べ、神様など呼ぶのは性に合わん」

「蒼様、私は蒼様がここで寝るのであれば外で寝るので」

そう言って、立ち上がり手を外の扉にかけるがそれをすっと蒼様が静止する。

「今夜は冷える、お前がここで寝ろ」

「でも、か、、蒼様の寝る場所が」

「俺は人ではない、寝らなくとも、過ごせる。

それに、お前は疲れている、明日詳しい話を俺に聞かせるためにも眠っていろ」

そう言って私の細い手を引き、布団まで連れてきた。

「いえ、、いけません。私なんかが寝るなんて」

そう言うと蒼様は

「これは神様の言うことだぞ、聞けないのか」

そう言われると私は寝るしかなかった。

私が布団に入るとすぐに蒼様は部屋の灯りの蝋燭の火を落とし別の部屋へ移った。


私は眠る前、いろいろなことを考えていた。


今日のお昼頃に生贄として出されて死んでもいいと思っていたのに蒼様に助けられてこんな食事や寝る場所まで用意してくれるなんて、、

私は自分でも今日起きたことが信じられなかった。

(そうか、、これは私が死ぬ間際に見ている幸せな夢なんだ、、、目を落とせば私は現実に戻れるはず、、最後は楽しい時間だったな」

そう言って私は目を瞑り深い眠りに落ちた。

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