クラフター
ベガさん
プロローグ&1話前編
プロローグ
この世界には、“クラフター”
と呼ばれる特別な存在がいる。
素材に触れ、頭に思い描いた道具や武器を、
一瞬で生み出す者たち。百人にひとり、その手に
創造の力を宿す者たちだ。
だが、その中でも――“異端”と呼ばれる存在がひとりいた。
その名を、シロという。
白い髪。白い衣。無垢な外見と裏腹に、彼女は異質だった。
他のクラフターたちは、“作成台”と
呼ばれる専用の台を使い、クラフトを行う。
だが、シロはそれを使うことができなかった。
世界の理に適合せず、力をうまく循環できない体質
――とも言われた。
それでも、彼女は諦めなかった。
むしろ、その不完全さこそが、彼女の創造を突き動かした。
彼女は、自らの手で、自分専用の作業台を作り上げた。
名もなきその装置を、シロはただ――**“クラフト台”**と呼んだ。
シロのクラフト台は、他のクラフターのように「完成図」
を明示的に浮かべたりはしない。
その代わりに、素材に触れたとき、
シロの脳裏には――ふわりと、理想の“完成品の像”が浮かぶ。
輪郭も、色も、重さも、明確には見えない。
ただ、それは確かにそこに“在る”。
そして、彼女はその像に、そっと手を伸ばす。
まるで空間の奥にある光を、ゆっくりと引き寄せるように。
思い描いたそれを、現実に繋ぎ止めるように。
クラフトとは、彼女にとって「形を掴む行為」だった。
だが、これは非常に繊細で、熟練を必要とする技術だった。
未熟な者がこの台を使おうとすれば、完成品の像は歪み、
消え去ってしまう。
それはまるで――
水面に浮かぶ幻に、手を伸ばすような感覚。
だからこそ、このクラフト台を使いこなせるのは、
世界でただひとり。
“クラフトの少女”と呼ばれる少女、シロだけだった。
そして今、彼女のその才能が、
ある者にとっては「希望」となり――
また、ある者にとっては「脅威」となりつつあった。
第一章 前半 《出会いは、刃の音》
王都から遠く離れた辺境の村、セラ村。
シロは、そこで育った。
小さな村。家の数は十にも満たず、人も少ない。
その分、空気は澄んでいて、星もよく見えた。
今日もシロは、朝早くから素材を並べていた。
乾いた木の実、鉄砂、小動物の毛皮。
村人たちが持ち寄った日用品の素材を使い、
彼女は静かに“生活の道具”をクラフトしていく。
「……ふむ。これは、糸車に……」
白衣の袖が、陽に透ける。
小さな指先が空中で何かを掴むように動き――
ぱきん、と音を立てて、クラフトが成立した。
「できた。これで……もうひと冬は乗り越えられるね」
誰に話しかけるでもなく、彼女は静かに微笑んだ。
だが――
そのとき、扉を**「コン、コン」**と叩く音がした。
シロは目線を扉に向け、少し首をかしげた。
「……村の人じゃない、音…?」
慎重に扉を開けると、そこに立っていたのは――
全身を黒の外套で包み、背中に巨大な剣を背負った青年だった。
「……ここに、クラフターの“シロ”がいると聞いてきた」
低く落ち着いた声。
その瞳は鋭いが、敵意はない。
「あなたは?」
「カイ。王都から来た。任務でな」
「任務……?」
「お前のクラフト台の噂が、王の耳にも届いた。“規格外の台を作り、未知のアイテムを生成できる少女がいる”とな」
シロは無言で数秒見つめたあと、ふわりと首をかしげて言った。
「私は、ただ……使えるように、自分で作っただけ。普通の作成台が使えなかったから」
「……それが、王都にとっては“異常”なんだ。だから、調査に来た。……だが」
そこでカイは、少しだけ視線を逸らし、
そして静かに続けた。
「……俺自身は、あんたのクラフトに興味があったんだ。ずっと前からな」
「……私の、クラフトに?」
「ああ。“誰かを傷つける道具”じゃなく、“誰かを助ける道具”を作ってるって、そう聞いた。今どき、珍しい」
シロはほんの少しだけ目を見開いたあと、目を伏せる。
「私、作れるけど……戦うのは、できない」
「別にいいじゃないか、作れるんだ、誰かの役に立てる」
不器用な言葉。けれども、温かい気がした
そうして――
“クラフトの少女”と“黒い“騎士は出会った。
この日を境に、ただ村の中で素材を磨いていた少女の世界は、
静かに、大きく、動き始めることになる。
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