【記憶は家庭教師の頃のままであるという話】
街を歩き、今日も家庭教師として勉強を教えに行きます。
生徒の居る家のドアを叩くと、その家の大人がドアを開けた。
「先生。今日もうちの子をよろしくお願いします。」
「えぇ、こちらこそ宜しくお願いします。」
大人に向けて会釈を交わし、家に上がらせて貰った。
生徒に勉強を教えていると、その生徒が手を動かしつつこちらに話しかけてきた。
「先生。」
「何ですか?」
あぁ……この入りは……………………
「■、先生の事が好きになってしまいました。」
(…………この子もですか。)
「……………………………………そうですか。」
「先生は、■の事は好きですか?」
太腿のケースにしまっていたナイフを手で掴む。
「………………ごめんなさい。」
そう言うと同時に背後から頭へとナイフを突き立てた。
「ごめんなさい。」
苦しんでしまう前に殺せている事を願い、この家の階段を降りる。
この家には、誰が残っていたかな。
…………あぁそうだ。母親がいた。母親だけがいた。
ならいい。さっさと殺して盗品を持って帰ろう。
そう思えば行動は早くなる。そそくさと殺し、そそくさと物を袋にしまう。
そしてその家を出て、マッチに火をつけ後ろに放り投げた。
この頃が一番真面目で一番まともだったに違いない。なぜなら、私の記憶はそこで止まっているからだ。
いつから中央都市の騎士になっていたんだろう。いつの間に鎧を脱いでいたのだろう。
私はどうしてこの街に油を撒いたのだろう。
軽いステップを踏み、両手で持っている大きな入れ物の中の油をぶち撒けていく。
撒いて、撒いて、撒いて。まるで子供のような軽さを感じる身体と一緒に私ははしゃいでいる。
おかしくなったのではない。私は、騎士になりたくなかっただけだ。
騎士ではなく、家庭教師のままでいい。私はそれを望んでいる。
邪魔が入れば殺した。邪魔をされたから殺してやった。
鉄くさい血の臭いと油の臭いが混ざり合い、異臭になり始める。
私はこの街の正門に立ち、この街を見据える。まだ綺麗な状態で燃えてほしいからだ。
残った油を正門の真下に撒き、まだ残っていた油は入れ物の口を下にして自ら被った。
マッチの箱からマッチ棒を取り出し、箱の横で擦る。
そして、そのマッチを足元に落とした。
私の墓に刻む名前は、家庭教師であった頃の名前にしてください。
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