5話「理科室の天使さん.2」

夜になったので屋上を離れ、廊下を歩いていると見覚えのある和服の袖が見えた。

「…………。」

まぁ、でも、あっちから話しかけられない限りはこっちも話さない。

「…………。」

「?」

なんて思っていたらあっちが振り返った。

「あれ〜!天使さんだ。」

「おひさ〜〜。」

「うん、久しぶり……。」

彼はテンションが結構高い。のでたまについていけなくなる。

「理科室行き?」

「理科室行き。」

「今日はヒマだしついてこ。」

「勝手にしろ……。」

ボクの後ろを彼がついて来る。

「そういえば。今日1人死んだねぇ。」

「確かに死んだな。」

今の話の内容は昼の飛び降り自殺の事だと思う。

「…………またった?」

ってないし、自分の意思でしょ。」

「ワタシが占ったら全部視えるんだけど〜?」

「……。」

「もう1回聞くけど…………った?」

ったった。りました…………これでいいか?」

「うん。それでいいや〜。」



「そっちは、最近どうなんだ?」

「最近〜……?」

「…………あ、占いはやってるよ。」

「占いはやってるだろうな……とは思ってたから構わないが……。」

「それ以外の話。どう?」

「ん〜…………噂のせいで暴れられないんだよねぇ。」

「布は風でも吹かない限りめくれないし……。」

「まぁ……それは………………うん。」

「な〜にその微妙な反応は……。」

この男は七不思議の六番目…………なのだが、正直に語るなら彼が七番目でもおかしくはない。というかなんで七番目じゃないのか、と思っている。

彼は昔によくあったという、ちょっと典型的な_____それに捻りが入った内容の噂がある。


「……そういえば、なんで布で顔隠してんの?」

「ん〜…………あれ、なんでだっけ。」

「えぇ……???」

「顔隠したのかなり昔だから覚えてないや。」

「えぇ…………。」

(……まぁ……いっか。)

(気になりはするけど。)

「あ、ワタシはここで。」

そう言って、彼が立ち止まった。

その教室の上に付けられている札には調理室と書かれている。

「…………調理室?なんで?」

「ん~~?今から晩飯。」

「へ〜。」

「…………ここで人間みたいな事してるのってお前と四番目くらいだな……。そんなに恋しいのか?」

「いや……まぁ…………恋しくはないんだけどね?なんか人間と同じでお腹がくんだよね。」

「へ〜…………ど〜〜〜〜っでもいい。」

「…………は?は????」


「まぁいいや。ばいば〜い。」

「はいはい。ばいば〜い。」





理科室の前に立ったところで、とある事が脳裏をよぎった。

(料理を作るところまではいいとして、材料ってちゃんとあるのか……?)

(…………まぁ……ボクには関係ないか。)

ドアを開けて中へと入った。


いつもの場所机の上に座る。

(まぁ……ボクってここで待ってるだけだから…………。)

「あ゙~~……ヒマ〜〜…………。」



ー一方その頃ー

(冷蔵庫に何か…………あ、あった。)

(……この材料ならサラダかな。それか野菜炒め。)

『もしも〜し。もしも〜し。聞こえてる〜?』

(あぁ…………面倒くさいのが……。)

『もしも〜し!もしも〜し!』

(…………聴こえてないフリ聴こえてないフリ。)

面倒事に意識を向けるくらいならと、料理をする手を動かす。

(あ゙ぁ゙、クソ……クソ…………クソ…………!!)

(幻覚が見えてきた……。死ぬ前にアイツ等と関わったせいで……ぁあ、もう……!)


(面倒がすぎる…………。)

(…………いや、虫なんて入れてない。野菜炒めを作ってるんだから。)

(どの野菜が虫に見えてるんだろう……?まぁ……いいや。)



蝶なんて飛んでない。野菜炒めに虫なんて入ってない。

ワタシは人間の姿をしている。人間の頃から姿が変わっていない。




作った野菜炒めを食べながら、幻覚が収まるのを待つ。

『もしも〜し。』

「…………うるさい。帰って。」

『えー……?ヤダヤダヤダーーーー!!!』

「はぁ…………。」

この駄々捏だだこね野郎は都市伝説のメリーさん。電話じゃなくてテレパシーを飛ばしてくるとてもとてもとっ…………てもうるさい子。まぁ……昔にちょっとした依頼で関わったら今、このザマ。

『お願い!遊んでー?』

「嫌。お前は嫌い。」

『えーー?なんでーー?わたし何もしてないよーー?』

「…………お前のせいでワタシの冤罪が増えたから、かな。」

『…………そんなに嫌がるなら今日は辞めとく…………。』

『けど、最後に1回だけ!』

頭が割れるかのような頭痛に襲われる。脳振盪(という属性の攻撃)が脳にクリティカルヒットしてくれたらしく、とても痛い。この…………この幼子は脳振盪なんて属性は使わないというのに、こういうときだけは悪知恵を働かせてくれる…………。

(頭…………いっ……たぃ…………。)

(このまま割れるんじゃ、ないか…………?)

『じゃーねーー!』

(……………………………………。)




(…………収まった…………?)

(…………頭の中も、幻覚も収まった…………。)

(はぁ…………疲れた…………。)

(食べ終えたら寝よう………………。)

ゆっくりとした動きで箸を動かす。

「はぁ…………。」

ついうっかり。溜息が出た。

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