第31話 王都騒乱(1)

サラディア王国第2王女リリア。

今年10歳になったばかり,容姿はやや父親に似ていると言われ幼さの残る顔立ちである。

そんなリリアは王都の廃屋にいた。

廃屋とはいえ室内は綺麗に片付けられており,人が生活していけるようには整えられていた。

リリアの側には子犬サイズの大きさの白い狼が静かに控えていた。

そんな部屋の中に一人の人物が入ってきた。

護衛騎士であるラナだった。

女性騎士であり,護衛騎士の中でもかなり長くリリア付きになっている騎士でもある。


「リリア様,もうしばらくの辛抱でございます」

「分かっています。貧しい人々を助けるために私のこの力があるのですよね」

「そうでございます。リリア様の幻獣魔法は特殊でございます。契約幻獣を実体化させ自由に使役できる。他の者には真似できない,まさに神の御技でございましょう。長時間幻獣を呼び出していると、お疲れでしょうから紅茶をお持ちしましたから,お召し上がりください。疲れが取れますよ。それと必要の無い時は幻獣を異界に戻しておくと疲れませんよ」

「それは・・・分かっています」


リリアが紅茶を飲むと疲れているためなのか、虚ろな目つきになる。

ラナは微笑みながらそんな様子を見ている。


「お疲れの様ですから,少し休みましょう」

「そうですね」


リリアおぼつかない足取りでベッドに横になった。


「ゆっくりお休みください」


ラナはそれだけ言うと部屋を出ていく。

部屋を出たラナは,閉めたドアの前にたちしばらく部屋の中の様子を伺ってから静かに歩き始めた。

いくつか離れた部屋に来ると部屋の中に入る。


「隊長。悪い顔しますよ〜」

「本当だ。イライラが爆発しそうな顔してる」

「やり慣れない子守りをしているせいでしょう」


中では三人の男たちがソファーでくつろいでいた。

そんな男たちを睨むように言葉を吐く。


「世間知らずの餓鬼のお守りは大変なんだよ」

「そんなこと言って,うまく騙してこき使ってるじゃないですか」

「世間知らずは本当面倒臭いよ」

「でもノリノリでやってるじゃないですか」

「任務だからやっているだけだ。普段なら絶対にやらん」

「リリア様!!!なんて言っている姿を他の隊の奴らに見せてやりたいな」

「貴様らまとめて灰にしてやろうか」


ラナは片手に赤く燃え盛る炎の球体を生み出す。


「冗談・・・冗談ですよ。な・みんな・そうだろ」

「俺はそんなこと言ってないぞ」

「俺も言ってない」

「てめえら裏切るのかよ。てめえらもそう言ってただろう」


三人の男たちが揉め始めるとラナが怒りの声を静かに上げる。


「うるせえ,静かにしろ。王女に気が付かれたらどうすんだよ。てめえら本気で燃やすぞ。てめえらを燃やして本国から代わりを呼べばいいだけだ。代わりはいくらでもいる」

「「「すいません」」」


ラナの言葉に男達は表情を引き攣らせている。

ラナは炎の魔法を消すとソファーにどっかりと座り込む。


「くだらんことを言っている暇があれば仕事しろ」

「了解です。この部屋にいるときは変装魔法くらい解除したらどうです」

「一度解除してから再度使うと,微妙なところに狂いが出ることがある。言葉使いや仕草なんかで気づかれる恐れがある。できるだけ変装魔法は任務終了まではできるだけ解除したくないな」

「確かに、感の良い奴は,わずかな部分で疑いますからね」

「ああ,その通りだ。油断はできんぞ。ところで,セルニス本国からの指示はどうだ」

「このまま計画を進めろとアルガム将軍の指示です」

「サラディア王国側の動きはどうなっている」

「衛兵隊・王家の影も探索に動き出していますが,計画通り我らの仲間の流している偽情報に踊らされているようです」

「貴族・商人どもはどうだ」

「闇ギルド・暗殺ギルドに義賊白狼への報復を依頼したようです」

「貴族・商人・闇ギルド・暗殺ギルドも義賊白狼に儲けの全てを,王都中にばら撒かれているから,さぞ怒り狂っているだろう。依頼は願ってもないはずだ。自分たちの敵を叩き,それが収入になるのだ。必ず出てくる」


部下の報告を聞き満足そうに頷くラナ。


「しかし,幻獣魔法は凄いもんですね。静かでよくこちらのいうことを聞く。従順で賢くて能力も高い。俺たちも欲しいですよ」

「馬鹿野郎。あれはそんな大人しいもんじゃない」

「えっ・違うんですか,目にする様子は実に大人しいじゃないですか」

「あれは精霊よりも,もっとタチが悪くて恐ろしいものだ。一言で言えば、凶悪そのものだ。お前らはこれからはあれに近づくなよ。徐々に凶暴になってくる。うっかりすると殺されるぞ。リリアが眠っている時は、白狼は幻獣の世界へ戻されているからいいが、召喚している時は気をつけろよ」


部下たちは怪訝な表情をする。


「それは一体」

「これ以上の詮索は禁止だ。長生きしたかったら余計な詮索はするな」

「「「分かりました」」」

「良いかよく聞け。義賊白狼こと王女リリアを餌に,衛兵隊・王家の影・貴族ども・商人・王都の裏社会の連中をまとめて戦わせ,王都に騒乱状態を引き起こし,その隙にサラディアに奪い取られた土地を奪い返して,セルニス帝国復活の狼煙とする」

「「「はっ,承知しております」」」

「少なくとも義賊白狼の正体が明らかになれば,貴族達の王国への不信感は拭いきれぬこととなり,王国の統治体制にヒビを入れることはできる。準備はどうなっている」

「次の決行の予定の噂をわざと双方に流しております。双方とも血眼になって探しておりますから確実に食い付くかと」

「よかろう。手抜かりがないようにしっかりと準備せよ」

「「「お任せください」」」



部下である男達が部屋を出ていき,周囲に人の気配が無いことを確認するとラナはテーブルの上に少し大きめな水晶を設置する。

それは台座に乗せられており,台座にはいくつもの魔法文字が刻まれている。

ラナがその魔法文字に魔力を通していくと魔法文字が光を放ち始めた。

しばらくすると水晶が明滅を始め,やがて豊かな顎鬚を蓄えた男が水晶に映し出された。


「やあ,エルガム将軍元気そうで何よりだよ。新型の魔導通信装置は上手く機能しているかね」

「新型の魔導通信装置は問題なく機能している。儂の部下に化けて,さらに今は敵国の第二王女護衛騎士ラナだったな。貴様はいくつもの顔と名前があるから本当の姿を忘れてしまいそうになるぞ。メルゲン」

「心配しなくてもいいよ。自分でも自分が誰なのか忘れそうになることがあるからね」

「セルニス魔法師団長であり,偉大なる魔法使いを名乗る貴様としては,仕込みは上手くいっているのか」

「全ては順調さ」

「貴様の言う幻獣魔法はどうだ」

「第二王女の持つ幻獣魔法を実験台にして調べているところだ。色々新たな発見がある」

「エルフの連中が秘匿する幻獣魔法の才能の持ち主を敵国の第二王女に見つけたとき,貴様はまさに狂喜乱舞と言っていいほどだったな」

「お陰様で幻獣を呼び出して自由に使役するための初歩的な魔法陣が完成間近だ」

「ほぉ,呼び出した幻獣が歯向かって来ないのか」

「そこは手抜かりはないよ。ただ,魔法陣を使うせいなのか強い幻獣は呼び出せない可能性が高いな。その部分は今後の検討事項にはなる。そのためにはまだ色々と実験をしていかなくてはいけないが,それは戻ってからにするよ。そろそろ警戒が厳しくなってきている」

「三日後に騒動を引き起こして王都を脱出の手筈でいいのだな」

「不測の事態でもなければその予定だ」

「分かった。こちらもその様に動くことにする」



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