第29話 ハートテリウス公爵一家

王都にあるハートテリウス公爵邸に公爵家一家が勢揃いしていた。

シェリルとアリアがダイスケ達と王都に出発して,数日してから公爵家一家全員が王都に向けて出発。再度,ダイスケとの関係を問いただす為であった。

部屋の中には,公爵家のNo.2であり,事実上の最高権力者であるシェリル。

その娘のキャロル。

キャロルの娘のエリス。

エリスの夫で王国宰相でもある婿のアーロン。

エリスとアーロンの子であるクリフとアリア。

キャロルがシェリルに詰め寄っていた。


「お母様,ダイスケを優遇するのは分かります。アリアの恩人であり,婿殿が迷惑をかけたのですから。ですが,紋章入りの短剣を与えるのはやりすぎではありませぬか。あの短剣を与えるということは,単なる冒険者に公爵家の後ろ盾を与えることになります」

「私はやりすぎだとは思っていないよ。エルフの国にいる母のクレアとも魔導通信装置で話をして了解を得ている」


エルフの国にいるクレアが承知していると聞いて一同は驚きの表情をする。


「お婆さまが承知しているのですか,何故です」

「あまり詮索してもらいたくないのだが」

「なら,お母様が大剣を振るう時の型とダイスケが剣を振るった時の型が全く同じ。これはどういうことでしょう」

「たまたまだよ」

「たまたまなどということがあり得ますか。お母様が短剣を与えたことで色々な噂が出ております」

「噂?」

「公爵家の隠し子であるとか,婿殿が若い頃に浮気で作った子であるとか,中にはお母様の隠し子だとか」

「ハハハハ・・・」


シェリルは噂と聞いて大笑いする。

そんなシェリルに娘のキャロルは真剣な表情で怒った。


「笑い事ではありません」

「私の隠し子では無いよ。ただ,とても濃い縁がある存在さ。詳しくお前達に話せば,それが態度に現れる。それが困るのだ」

「とても濃い縁のある存在?それはいったい」

「そんなふうに詮索されるのが困る」


シェリルはとても困った表情をしていた。


「それでは困ります。家族に隠し事をしないでください」

「ウ〜ン。なら,契約魔法を結ばねばならん」

「契約魔法ですか」

「そうだ」

「家族であっても,それほどまでしなくてはいけないのですか」

「それを受け入れるものだけに話す。受け入れないものはこの部屋から出てくれ」


一同はお互いに顔を見合わせながらも誰も部屋から出て行こうとはしなかった。


「分かった。いいだろう。これから話すことは,ダイスケ本人が明かにしない限りここにいるもの達以外のいる場所で話してはならない。話そうとすれば,言葉が止まり一切話すことができなくなり,激しい頭痛に襲われることになる」


全員が静かに頷く。


「それとラデウスは薄々分かっているから,後で個別に契約魔法を結び話しておくことにする」


シェリルが呪文を唱えていくと床に魔法陣が浮かびあがり,そこから光る線が一人一人に伸びていき,ひとりひとりと光の線が繋がる。

そして,契約魔法の魔法文字が浮かび,ひとりひとりの体に溶け込み消えていく。

やがて魔法陣が消えた。


「さて,どこから話せばいいかな。そうだな,簡単に言ってしまえばダイスケは私の弟弟子に当たる」

「はぁ?弟弟子。お母様,それはいったい」

「お前達には話していなかったが私が大剣を振るう時の型は,500年前の剣聖が用いた剣術の型の一部である」

「剣聖ですか,御伽話に出てくる牙龍剣術ですか」

「そうだよ」

「本当の話だったんですか,私はてっきり御伽話かと思いましたよ。本当に剣聖は実在したんですね」

「ああ,剣聖は本当に存在したんだよ。剣聖は私の父と母の仲間であり,初代国王の友でもあり,この国を作り上げる時の仲間だったのさ。私は幼かったせいか可愛がってくれて,剣の手解きを受けたが全てを教わることができなかった。そこまでの才能がなかったのさ。そしてその頃に剣聖が直接教えてくれたのは私のみだった。剣聖が亡くなった後,教わったことに魔法を組み合わせることで今の私の力とした」

「ダイスケはその失われた牙龍剣術の使い手だと」

「そうだ。私のように一部だけ受け継いだのでは無く、全てを受け継ぐ正真正銘の本家本元だよ。アリアはダイスケが魔法を切り裂く姿を見ただろう」


シェリルの言葉にアリアは無言で頷く。


「あれは剣聖の技のひとつだよ」

「ですが剣聖は500年前に亡くなってます。誰に教わったというのですか」

「当然,剣聖本人だよ」

「ですが,剣聖は亡くなってますよ。それに今直接教えを受けたのはお母様一人だと」

「その頃と言ったはずだよ」

「その頃?」

「ダイスケは魂の存在となった剣聖に教えを受けている。毎日眠ると魂の世界で直接指導を受けているそうだよ」

「流石にそれは・・」

「私のスキルの一つ,真実の眼がそれが事実だと言っているよ」

「あらゆる嘘と隠蔽を見破るスキル真実の眼で調べたのですか」

「剣聖の弟子・牙龍剣術と出ている。それと私と私の母クレアしか知らない剣聖の名前と姿・そして剣聖の秘密を知っていた。他の者達が知らないことだよ」

「剣聖の名前と姿・剣聖の秘密ですか」

「そうだ。御伽話の話の中にも語られていないことだ。剣聖の名は,トマム。剣聖の秘密は,剣聖は異世界からの迷い人であることだよ。それとダイスケも異世界からの迷い人だよ」

「異世界からの迷い人ですか・・数百年に一度,異世界からやってくる常軌を逸するほどの力を持った存在と言われる者達ですか」

「剣聖トマムはそのことを秘密にしていて,仲間である初代国王・父と母・私だけが知っている秘密でもあった。異世界人なんてことが公になれば,何が起きるか分からない。それを利用しようとするもの達が動き出すことにもなる。または,そのことに反発するものも出てくる恐れもあった。それ故に迷い人の事実と名乗っていた本当の名前を秘匿したのだ。それでも剣聖の突出した力は隠しきれずに御伽話として残ったんだよ」

「ならばこの先,ダイスケをどうするおつもりですか」

「どうもせんよ。基本的に本人の自由意志に任せる。我々がダイスケを害することや無茶な要求・権威を傘に着るような行為が無い限りは,エルデバイス冒険者ギルド所属の冒険者としていてくれる。ただし,他の貴族たちや大商人などがダイスケに圧力をかけたり,無茶な要求をするならば,そのような輩は当家が排除する」

「お母様は言い出したら聞きませんからね。承知いたしました」

「姉弟子としては,せっかく出来た弟弟子を守ってやらんとな」


シェリルは,にこやかな笑顔を見せた。


「できる限りダイスケとは良好な関係を維持できるようにしましょう」

「頼むぞ」

「承知しました。ならば,婿殿」


キャロルは,アーロンを呼ぶ。


「はい」

「聞いていたとおり,ダイスケ殿は我が母シェリルの弟弟子。有象無象の輩がいらぬ真似をすれば排除します。そのことを心に留めておきなさい。それと今後いらぬ真似をして騒動を起こさぬようにしなさい。いいですね」

「承知いたしました」

「クリフ,アリアもいいですね」

「「承知しました」」


ハートテリウス公爵家におけるダイスケへの対応が決まったのであった。

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