『俺の願いは、君と同じになりたいだけ。』 〜神さま、俺と“永遠”を望もう〜

kesuka_Yumeno

君が神なら、俺は何になれば、そばにいられる?


これは、富も、権力も、美貌も──

そのすべてを手中に収めながら、

病により、大人になるまで生きられないと言われた一人の公達と、

一人きりで永遠を生きる、かつて“神”と呼ばれた妖の少女の話。



偉大な神を祀った社は、いつも人の願いで溢れていて。

今日も俺の願いを聞いてはくれない。俺の順番は死ぬまでまわってこないのかもしれないね?


いっそ、寂れた神ならば一番に叶えてくれるだろうか。

人知れず朽ちかける、苔むした社へ向かう。

誰も通わなくなった社に、矢で打たれ出血した獣が横たわる。

犬とも狐ともつかない白くてふわふわした身体は赤に濡れていた。

矢を抜いたら、お前は死んでしまうね。


「いっそ、俺と死ぬかい?」

お断りだね、そんな目線で獣が睨む。

冗談だよ。あは、ははは。

冗談も通じないな、獣は。

矢は刺さったまま、可能な限り取り除き、薬を取り出して塗ってやる。

袖をびりびりとやぶきまいてやる。

「嘘だよ、俺より長生きしてごらん」


獣が金の目を大きく見開いた。

「へぇ、お前、綺麗な顔してるね」

犬のように、撫でてやる。

やめろよ、馬鹿。そう言いたげな目をしているが、黙って受け入れている。

「可愛いい奴だ。飼ってやろうか?」

遠慮する、とでも言いたげにひらり、と腕をすり抜けた。


「あまり、無理するなよ」

お前もね?そう言っている気がする。

これは、犬ではなく猫かもしれないね

手負の癖に、後光を浴びて立つお前は猫神様かい?

なんだっていい。


「願いを、聞いてくれないか」

思わず口をついて出たその言葉に、

自分でも、驚いた。


「……死にたくないんだ」

今度は、ちゃんと願いを込めて。


「無理言うなよ、私だって死にそうなんだよ?」

いつの間にか、獣は白の少女に変わっていた。

月光のようになびく髪、はためく衣、袴は血のように、赤く染まっている。


「これは……驚いたな、本当に神様でしたか」

こうべを垂れる


「ふん、わかっていたのではないのか?──ふてぶてしい奴かと思ったが?」

流石は神。随分偉そうだ。可愛らしい少女の姿とは不釣り合いのお言葉。

思わず笑う。


「気に入らないね。私は、本来神でも妖でもない。勝手に呼び崇めるのはお前たちだろう?

勝手に捨てるのもね?」

身体以外も傷ついていたのか。


「それは、申し訳なかった。知らなかったとはいえ、失礼をした」

心からの謝罪だった。


「ああ、構わない。神は寛大らしいから。傷の手当て、感謝する。今日の私は妖ではなくて良かったね?」

危ういところだったな。

雷光のような瞳が嫌でも、本気を悟らせる。

……いや?ここで死ぬなら悪くはないか。


もう少し踏み込んでみよう

「神様?何を捧げれば、願いを叶えてくれますか?」


「ほう。殊勝な心がけだな」

彼女が目の前まで迫ってきた。


「手っ取り早くて助かるよ」

俺の顎に、すっと指をかける。

……これは、踏み込んでしまったと言うべきか?


——血を寄越せ。全部。全て差し出したなら、何でも叶えてやろう。


社全体に、声が響きわたる。

やれやれ、やはり妖ではないのか、お前は。


「骨の髄まで、喰らってやろうか?」

にこやかに獣のように笑うね、君は。

血が凍るほど、美しいとはこのことか。


「かまいませんよ。あなたが臨むなら。

——俺の望みを叶えてくれるなら」


「へぇ、頭のよろしいことで」

小馬鹿にしたように頭を撫でてくる。

さっきの仕返しか?


「そうだね、差し出した命は願えば、きれいに返ってくるよ。ただ──痛みに耐えればいい」

……痛々しい顔で笑うなよ。

それが望みじゃないんだ。

今はもう。


返す間も無く首筋に、噛みついてきた。


おい、続きを聞け!

節操なしが!!


「……甘い。久しぶりだから、手加減できそうにない。悪いね?」

吸われながら頭がくらくらする。

反して彼女は傷がどんどん癒えていく。

頭頂からふさふさした耳が生え、尻尾がしなる。


「人の話は最後まで聞け!この獣が!!」


「何だよ、今いいところなのに。空気読めよ」

口元の血を拭いながら、上目遣い。

それでも聞き返してきた。

……寛大な神で感謝するよ。全く。


息を吸う。

おかげさまで酸欠だ。

「生きたいんだ。——君と共に。君と同じ存在にしてほしい」


「は? なんだよ、惚れたか? 小僧」

きょとんとした仕草と、台詞がまったく合っていない。

本当に、面白い子だ。


「惚れましたよ? 責任とって助けてくれますね、神さま!」


嘘なんて、神の前じゃつけるはずもない。


「ははっ、あはは。愚かな人間に施しを与えるのも、神の務めだからね? ……仕方ないなぁ」


——ガブリ。


遠慮なんてない。深く、容赦なく噛んできた。

持っていかれる。何もかも。


意識が遠のく。

体が、眩しいくらいに光りはじめる。

瞬きさえ、辛い。目を閉じる。


……でも、眠ることだけは許されなかった。


次に目を開けたとき、

俺は──耳も、尻尾も、ふっさふさになっていた。


「……これは……癒される」


なんか、毎日強く生きれそうだな。ははは。


「そんなに尻尾振って。嬉しそうだねぇ」

彼女も、嬉しそうに笑う。


……そうだよ。なんなら尻尾ぶつけてやろうか?


そんな彼女を見て、ふと、

「……喉が渇いたな」

本音がこぼれた。


「おい、なんだその目は。こっちへ来るな」


そんなこと言われても。

あなたが、同じにしたんでしょう?


「責任とってくれるって、言いましたよね?」


——そのまま、彼女の白い首筋に、かぶりつく。


「甘い。これは、止められない……」

「痛いじゃないか、このヘタクソ!!」

そんなこと、言われてもはじめてですし。

「じゃあ、あなたが教えてくださいよ」

「言ったな、小僧。時間は永遠にあるからね。

飽きるまで教えてあげるよ」


こうして、社には二柱の神が祀られるようになりました。

この社に、名前をつけて。

彼と彼女をなんと呼ぼう?神さまでいいのかな。

この物語は、なんと呼ぼうか。


終わり






🦊ふさふさの神様と、金眼の貴公子。

その姿を、ぜひ「目」でもご覧ください。


📖【イラストと近況(2025/07/08)】

▶︎ https://kakuyomu.jp/users/kesuka_Yumeno/news/16818792436181752779

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